61話 家族会議
夜になっても、灯りは落ちなかった。
卓の上には何もない。
地図も、帳簿も広げられていない。
それでも、話は具体的だった。
「次に持ち帰れる量は、
小麦より“別のもの”だな」
父がそう切り出す。
飢えは、
一度しのげば終わりじゃない。
続く仕組みがなければ、
意味がないと全員が分かっていた。
長兄が口を開く。
「鉄だ。
農具と釘。
収穫量を増やすには、まず道具が要る」
正しい。
だが、それだけでは足りない。
母は首を振った。
「鉄は大事。
でも、それは“使える手”があってこそよ」
「保存できる食。
乾かす、漬ける、燻す。
そのための知恵と器が欲しいわ」
知識と器具。
形のない財だ。
「……糸とか、布は?」
場が、静まる。
だが、
誰も否定しなかった。
「寒さを防げる。
売れる。
仕事にもなる」
父が頷く。
「衣が安定すれば、
人は飢えにくくなる」
話は、
自然と“持ち帰れるもの”へ収束していく。
量よりも、
再生できるかどうか。
一度きりではなく、
次の年、
その次の年へ繋がるか。
「種」
「道具」
「作り方」
「使い回せる素材」
どれも、
イベントリーに収まるものばかりだ。
ジャックは、
口を挟まない。
ただ、
家族の言葉を聞きながら、
胸の奥で整理していく。
――これは、
買い物じゃない。
未来を運ぶ準備だ。
最後に、
父が言った。
「次は、
“飢えない”だけじゃ足りん」
全員が顔を上げる。
「余りが出るものを選べ。
余りは、力になる」
交易。
信用。
発言権。
辺境伯領が、
ただ生きる場所から、
選ばれる土地になるために。
その夜、
ジャックは思う。
東京で手に入るものは、
物だけじゃない。
仕組み
知識
時間を短縮する手段
それらを、
どこまで持ち帰れるか。
そして、
――生き物は、含まれるのか。
神獣の影が、
まだ名もなく、
思考の端に差し込んでいた。
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