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57話 いつもの日常へ
段ボールはもうない。
ベッドは置いた。
机もある。
椅子も、カーテンも、最低限の家電も揃った。
部屋は「住める状態」になった。
でも、
まだ「住んでいる」感じはしない。
ベッドに腰を下ろし、
マットレスの沈み具合を確かめる。
悪くない。
(考えるのは、後でいい)
今は、
日常に戻る。
スーツケースに最低限を詰める。
歯ブラシ、着替え、充電器。
それだけで十分だった。
玄関で一度だけ振り返る。
きれいな部屋。
静かな空間。
ここは逃げ場じゃない。
保留だ。
鍵を閉める。
カチリ。
東京の部屋は、
その瞬間、
「未来」になった。
いつものアパート。
いつもの駅。
いつもの仕事。
社長に挨拶して、
同僚と他愛もない話をして、
黙々と手を動かす。
変わらない。
でも、
確実に違う。
財布の中身でもない。
口座の数字でもない。
(選択肢が、増えた)
それだけだ。
夜、
アパートに戻り、
コンビニの弁当を食べる。
特別じゃない。
風呂に入って、
布団に入る。
天井を見ながら、
東京の部屋を思い出す。
(今日は、考えない)
目を閉じる。
明日も、
同じ一日だ。
でもそれは、
「縛り」じゃない。
自分で選んでいる日常だ




