56話 東京での夜
鍵を回す。
ガチャ、という音。
それだけで、
ここが「自分の場所」になった気がした。
ドアを開ける。
誰もいない。
当たり前だ。
靴を脱いで、
ゆっくり中に入る。
――何もない。
床。
壁。
天井。
新築特有の、
少し乾いた匂い。
(広いな)
声に出すと、
やけに響いた。
生活音がない部屋は、
落ち着くというより、
まだ「未完成」だ。
窓を開ける。
東京の音が、
遠くでざわめいている。
近すぎず、
遠すぎず。
(悪くない)
スマホを取り出し、
メモを開く。
やることは山ほどある。
まず、家具。
ベッド。
妥協しない。
睡眠は削らないと決めている。
机。
配信用。
仕事用。
ケーブルが散らからないやつ。
椅子。
長時間座れるもの。
見た目より、腰。
カーテン。
遮光。
昼でも夜を作れるように。
次、家電。
冷蔵庫。
小さすぎるのはダメだ。
自炊しないとしても、
飲み物は入るサイズ。
電子レンジ。
炊飯器。
最低限でいい。
洗濯機。
静音。
夜でも回せるやつ。
備品。
食器。
一人分で十分。
掃除用品。
溜めない。
汚れる前にやる。
延長コード。
これ、絶対足りなくなる。
防音マット。
念のため。
(配信する気、満々じゃないか)
ふっと、
自分に突っ込んでしまう。
でも、
置かない理由もない。
やらない可能性はあっても、
やれる状態にしておく。
それが今の自分だ。
通販サイトを開き、
次々とカートに入れていく。
金額は、
もう見なくなっていた。
(生活費は確保してる)
(税金も払ってる)
(問題はない)
言い訳じゃない。
確認だ。
配送は夕方以降にお願いしないと
ジャックは苦笑する。
ベッドだけは、
実物を見に行こう。
それ以外は、
届けばいい。
空っぽの部屋の真ん中に立つ。
まだ、何もない。
なのに、
不思議と不安はなかった。
(ここは、逃げ場所じゃない)
(始まりだ)
そう思えた。
ジャックは、
床に直接座り、
背中を壁に預けた。
しばらく、
何もせず、
東京の音を聞いていた。
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