6話 その世界にもあった“ステータス”
初めて見る魔法は、想像よりもずっと静かだった。
詠唱と呼ぶには短い言葉。
空気が一瞬だけ張り詰め、次の瞬間、指先から淡い光が生まれる。
火でも雷でもない。
「現象」そのものが書き換えられたような、不思議な感覚。
「……すごい」
思わず漏れた声に、周囲の貴族たちが少し誇らしげに頷く。
この世界では、魔法は特別であり、同時に“当たり前”でもあるらしい。
だが――
俺が本当に驚いたのは、その直後だった。
「では、ステータスを確認しよう」
卓上に置かれたのは、金属でも紙でもない、半透明の板。
魔法陣が刻まれ、起動陣が淡く光る。
それを見た瞬間、背筋が凍る。
(……UIだ)
触れた途端、視界の端に文字が浮かび上がる。
【ステータス】
名前:カナメ
年齢:5
職業:未設定
HP:12
MP:28
筋力:3
敏捷:4
耐久:3
知力:18
魔力:22
スキル:
・解析(Lv1)
・模写(Lv1)
・言語理解(Lv1)
思考が一気に加速する。
(ある……この世界にも、ステータス概念が)
しかも数値は、完全に設計思想を持った構造だ。
HP・MP、基礎能力、スキル。
偶然にしては出来すぎている。
だが同時に、違和感もあった。
(レベルが、ない?)
成長段階を示す指標が存在しない。
つまりこの世界では――
経験値ではなく、行動と理解がすべてということになる。
「数値が見えるのは、才能の証だ」
貴族の一人が言う。
「だが、多くはただの参考にすぎぬ。
本当に重要なのは、魔法陣を“読めるか”どうかだ」
俺は机の上の魔法陣に視線を落とす。
――読める。
線は構文。
円は関数。
起動陣はトリガー。
(……これ、コピーできる)
いや、正確には――
最適化できる。
この世界は、魔法を“神秘”として扱っている。
だが俺には、それが再現可能な技術に見えた。
ステータスは、そのためのインターフェース。
知らぬ間に、口角が上がっていた。
(なるほど……この世界、思ってたよりずっと――
作り替えがいがある)
魔法を初めて見た日。
同時に俺は、この世界の仕組みそのものを覗いてしまったのだった。




