39話 「普通」を積み上げるという選択
派手な力も、奇跡もある。
だがこの世界では――
「何をしてきたか」より
「記録に何が残っているか」
それがすべてだと、ジャックは理解していた。
最初の一枚の紙
相談員は一枚の紙を差し出した。
「まずは、ここからですね」
・就労支援プログラム
・職業訓練(短期)
・学歴不問
・身分証は“仮登録”で可
「派手じゃないです。
でも、“履歴として残る”」
ジャックはその紙を見て、少しだけ笑った。
(異世界で王族や教会と渡り合った俺が) (最初に掴むのが、これか)
だが――悪くない。
働く:誰にも疑われない場所
最初の仕事は、
倉庫の仕分け作業だった。
朝、決まった時間に来る。
番号を呼ばれ、黙々と箱を運ぶ。
誰も過去を聞かない。
誰も未来を期待しない。
それが、逆にありがたかった。
(……簡単だ)
魔法を使う必要もない。
未来予測すら要らない。
・遅刻しない
・指示を守る
・怪我をしない
ただそれだけで、
**「真面目な青年」**という評価が積み上がる。
学ぶ:紙の上で証明される知識
夜は職業訓練。
IT基礎、簿記入門、PC操作。
(……知ってるな)
異世界で魔法陣を解析し、
世界線を観測していたジャックにとって、
内容は正直、初歩以下だった。
だが、修了証が欲しかった。
「わかってる」では意味がない。
「修了した」だけが残る。
テストは満点。
講師は首をかしげる。
「君、前に勉強してた?」
「……独学です」
嘘ではない。
「何者でもない」ことの強さ
三ヶ月。
ジャックの経歴には、こう書かれる。
・就労支援プログラム参加
・職業訓練修了
・倉庫作業・短期雇用
・勤務態度:良好
それだけ。
だが――
・犯罪歴なし
・問題行動なし
・失踪記録なし
“空白が、自然に埋まった”
相談員が静かに言う。
「これで、“いきなり現れた人”ではなくなりました」
「ただの、普通の若者です」
ジャックは小さく息を吐いた。
(……なるほど)
異世界で築いた功績より、
この世界では――
三ヶ月の無遅刻の方が、よほど効く。




