第4話 辺境伯の重責と役割
父――フォニアジーク・フォン・キルヒアイスは、辺境伯だ。
その確認は、言葉ではなく“空気”から始まった。
屋敷に出入りする人間の多さ。
武装した兵の足音。
交わされる会話の緊張感。
「国境付近で、小競り合いがあったそうだ」
「物資の流れが滞れば、冬が厳しくなる」
(……なるほど)
ここは、マルーン王国の最前線。
中央から遠く、敵国と接する土地。
辺境伯とは、単なる貴族ではない。
王の代わりに、国境を守る存在。
領地の統治。
軍の指揮。
外交の最前線。
(重いな)
ジルフォニアが背負う未来は、想像以上に過酷だ。
◆
父の声は多くを語らないが、その一言一言は重い。
「力だけでは、辺境は守れん」
「判断を誤れば、国境は崩れる」
誰に向けた言葉かはわからない。
だが、その場にいた全員が背筋を伸ばしていた。
(……これが、辺境伯)
前世で、責任から逃げ続けた俺には、眩しすぎる背中だった。
◆
そんなある日、俺は気づいた。
時空魔法は、単一の魔法ではない。
(止める、戻す、伸ばす……)
(どれも“時間”の操作に見えるが、本質は違う)
世界を“切り取る”感覚。
時間と空間を一体のものとして扱う――
それが、この力の正体だ。
(つまり……)
俺は、まだ言葉にならない思考を、必死に組み上げる。
(空間だけを切り取れば、転移になる)
時間を操作せず、
“場所”だけを移す。
それは、時空魔法の一分岐。
転移魔法。
(昇華、だな)
理解した瞬間、世界が僅かに震えた。
だが、発動はしない。
(当然か。座標も、距離も、何もわからない)
だが方向性は、はっきりした。
◆
そして、俺はもう一つの結論に辿り着く。
(時空を超える転移……)
それは単なる瞬間移動ではない。
世界そのものを越える移動。
もし、それが可能なら――
(元の世界に、戻れる)
配信者だった俺。
後悔ばかりだった人生。
そこに、未練がないと言えば嘘になる。
だが、それ以上に――
(証明したい)
逃げ続けた人生ではなかったと。
やり直しが、意味を持ったのだと。
◆
夜、揺りかごの中で、俺は静かに誓う。
(最終目標は、決まった)
時空魔法を極め、
転移魔法へと昇華し、
世界を越える。
辺境伯家の三男として生まれた理由。
この力を授かった意味。
(すべて、そこへ繋がっている)
今はまだ、赤子だ。
だが時間は、味方だ。
焦らず、積み上げる。
――ジャック・フォン・キルヒアイスは、
静かに、しかし確かに、時空の彼方を見据えた。




