表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後悔ばかりの男の逆転人生  作者: れんれん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/32

第3話 言葉なき観察者

声が、意味を持って聞こえる。

 それに気づいたのは、生まれてしばらく経ったある日のことだった。

「ジャック、今日は機嫌がいいわね」

「さすがは辺境伯家の三男だな」

(……理解できてる)

 音ではない。

 言葉として、内容として、正確に頭の中に入ってくる。

(記憶も知性も、完全に引き継ぎか)

 内心でそう結論づけながらも、彼――俺は小さく息を呑んだ。

 問題は、返す手段がないことだ。

 喉を動かそうとしても、舌を操ろうとしても、出てくるのは意味を持たない赤子の声だけ。

 頭の中では文章が組み上がっているのに、それを世界へ届ける方法が存在しない。

(……これは、想像以上に不便だな)

 ◆

 だから俺は、割り切った。

(話せないなら、観察する)

 動けないなら見る。

 選べないなら記憶する。

 言葉を拾い、関係を整理し、世界の輪郭を少しずつ掴んでいく。

 断片的な会話から、家族構成はすぐに把握できた。

 ここは――

 マルーン王国。

 その中でも、王国の外縁を守る辺境伯領。

 父の名は、フォニアジーク。

 辺境伯にして、この家の当主。

 母は、サリーシャ・エバンス。

 穏やかな声と、よく俺を抱く温かな腕の持ち主だ。

 兄弟は三人。

 長男――ジルフォニア。

 次代の辺境伯として育てられているらしく、名前が出るたびに空気が引き締まる。

 次男――ロンドフェスト。

 剣の稽古がどうだとか、活発だとか、そんな言葉と一緒に語られることが多い。

 そして――

 (三男、俺)

 名前は、

 ジャック・フォン・キルヒアイス。

(……貴族名だな)

 前世では、画面の向こうで名前も顔も知られない配信者だった。

 それが今では、名を持ち、家を背負う立場として生まれている。

 重みを感じないわけがない。

 ◆

 もう一つ、気づいたことがある。

 どうやら俺は――

 金髪らしい。

「本当に、綺麗な金色ね」

「フォニアジークに似たな」

 そんな会話が、何度も耳に入った。

(金髪の貴族三男、か……)

 鏡は見えない。

 だが、周囲の反応から察するに、見た目もそれなりに“期待される側”なのだろう。

(前世とは、正反対だな)

 ◆

 そして俺は、もう一つの“違和感”を観察していた。

 感情が強く揺れた瞬間。

 泣いたとき、驚いたとき、あるいは強く何かを願ったとき。

 世界の動きが、ほんの一瞬だけ鈍る。

(止まってはいない……でも、伸びた)

 時空魔法。

 完全な停止でも、明確な巻き戻しでもない。

 だが確かに、時間に“触れている”感覚がある。

(無意識下での微調整……今はこれが限界か)

 赤子の身体では、力を扱う器が小さすぎる。

 焦れば暴発しかねない。

(急ぐな)

 それは、前世で最後までできなかったことだ。

(今回は、時間がある)

 ◆

 ある夜、両親が静かに話していた。

「この子……あまり泣かないわね」

「よく周りを見ている気がする」

 一瞬、心臓が跳ねた。

(気づかれてる、か)

 だが次の言葉に、胸の奥が熱くなる。

「賢い子になるかもしれないな」

「そうね……」

 期待。

 前世で、俺が最も避け続けたもの。

(でも……今度は)

 逃げない。

 貴族の三男として。

 ジャック・フォン・キルヒアイスとして。

 期待されるなら、それを背負う。

 応えられるかは、これから決めればいい。

(後悔は、もうたくさんだ)

 言葉を得る日まで。

 歩き出す日まで。

 時空魔法を、意志で使える日まで。

 ――言葉なき観察者は、沈黙の中で、確実に未来を組み立て始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ