第28話 使徒である理由、そして目的
十三歳になった。
それだけ聞けば、ただの少年だ。
だがジャックの日々は、相変わらず研究に費やされていた。
時空理論の再構築。
世界線転移の仮説整理。
魔力循環の最適化。
使徒になってからも、何も変わらない。
――変える気が、なかった。
その夜。
フォニアジークは珍しく、家族全員を応接室に集めた。
「……今日は、ジャックの話を聞く」
それだけを告げ、席に着く。
ジルフォニアもロンドフェストも、言葉を挟まない。
ただ、三男を見ていた。
ジャックは小さく息を吸い、口を開く。
「……創造神の使徒、って言われてる理由」
母サリーシャが、静かに頷く。
「話したいなら、聞くわ」
ジャックは、視線を落とした。
「俺は……この世界の人間じゃない」
空気が、止まる。
「前の世界では、壮年の男だった」 「名前も、身分も、今とは違う」
兄たちが息を呑むのが分かった。
自嘲気味に笑う。
「後悔ばかりの人生だったよ」
そして、白い世界。
創造神。
時空魔法というギフト。
全てを、淡々と語った。
否定も、美化もせず。
「だから、俺の目的は最初から一つだけ」
ジャックは顔を上げた。
「元の世界に、戻ること」
フォニアジークは、すぐに言葉を返さなかった。
代わりに、母が尋ねる。
「……今は?」
「まだ、到達してない」
即答だった。
「世界線の座標が足りない」 「時間軸の固定もできてない」 「無理にやれば、世界が壊れる」
「だから、今は研究してる」
それだけ。
沈黙の中、ロンドフェストが口を開いた。
「……じゃあ」 「結婚とか、地位とか」
ジャックは首を振る。
「不要」
きっぱりと。
「婚姻も」 「貴族としての出世も」 「高等教育も」
視線が、揺らがない。
「俺にとっては、全部“寄り道”だ」
父が、低く問いかける。
「……この家は?」
一瞬、間があった。
ジャックは、ゆっくり答える。
「大切だよ」 「だからこそ、利用したくない」
「俺は、ここを“拠点”にはする」 「でも、“目的地”にはしない」
フォニアジークは、目を閉じた。
そして――笑った。
「……なるほどな」
立ち上がり、ジャックの前に立つ。
「ならば、好きに生きろ」 「お前の人生だ」
母サリーシャは、そっとジャックを抱き寄せる。
「帰りたい場所があるなら」 「それを否定する理由はないわ」
兄たちは、何も言わなかった。
ただ、静かに受け入れた。
その夜。
ジャックは自室に戻り、魔導書を開く。
使徒。
神意。
世界の均衡。
――どうでもいい。
「俺は、俺の人生を取り戻す」
それだけだった。
十三歳の少年は、再び研究に没頭する。
帰る場所を、自分で選ぶために。
世界がどれほど揺れようとも――
それは、彼の目的ではなかった。
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