第27話 それでも、帰る場所
夜。
辺境伯邸の庭は、月明かりに照らされていた。
誰もいないはずの時間。
それでも、ジャックは一人、石畳の上に立っていた。
「……使徒、か」
小さく呟く。
昼間は、いつも通りだった。
魔法の研究をして、薬を調合して、家族と食事をして。
だが、心の奥に、沈んでいたものがある。
――元の世界。
ライブ配信者として、誰にも見られない枠で、
それでも画面の向こうに向かって話し続けていた日々。
「……帰りたいかって言われると」
自分でも、答えは曖昧だった。
後悔ばかりの人生。
やり直すために与えられた力。
それでも。
「置いてきたもの、あるよな……」
ジャックは、そっと地面に魔法陣を描く。
時空魔法。
かつて、創造神から授けられた“ギフト”。
「転移じゃ、足りない」
距離を超えるだけでは意味がない。
必要なのは――世界線の跳躍。
空間が、わずかに歪む。
だが、すぐに霧散した。
「……やっぱ、無理か」
今の転移魔法は、この世界の中で完結している。
世界そのものを跨ぐには、何かが足りない。
ジャックは静かに考える。
神の加護。
膨大な魔力。
空間断絶。
それでも届かない。
「……座標、か」
呟きが、夜に溶ける。
元の世界の“位置”を、彼は知らない。
時間も、空間も、情報も足りない。
「なら、集めるしかない」
ジャックは立ち上がる。
使徒だとか、神意だとか。
正直、どうでもいい。
自分が欲しいのは、
“選択肢”だ。
帰るか、帰らないかを――
自分で決めるための力。
空を見上げる。
月は、この世界のものだ。
「……あのじいさん」
小さく、空に話しかける。
「また会ったら、聞くからな」
返事はない。
それでも、ジャックは笑った。
「次は、“世界を渡る転移”だ」
少年は、再び歩き出す。
神の使徒としてではなく――
一人の人間として。
帰る場所を、自分で選ぶために
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