第26話 沈黙する王、揺らぐ信仰、名を知る少年
王城・謁見の間。
王は、中央教会から届いた一通の正式文書を、無言で見つめていた。
玉座の間には、重苦しい沈黙が落ちている。
「……読み上げます」
側近が声を絞り出す。
「――辺境伯家三男、ジャック・フォン・キルヒアイスを
創造神の使徒と認定する」
ざわめき。
「いかなる権力、王命、法によっても
彼の行動を制限してはならない」
最後の一文が読み上げられた瞬間、空気が凍りついた。
「……ふざけるな!」
若い貴族が叫ぶ。
「王権を否定する気か、教会は!」
だが、王は手を上げた。
沈黙。
王は、ゆっくりと文書を机に置いた。
「……否定されたのではない」
低い声。
「超えられたのだ」
誰も、言い返せなかった。
王は理解していた。
これは脅しでも、政治でもない。
神意の宣告だ。
「この件は……受け入れる」 「これ以上、辺境伯家とその三男に関する議論は行わぬ」
それは、王としての敗北宣言だった。
同時刻――
中央教会。
聖堂の地下、密やかな集会が開かれていた。
「使徒だと? ふざけるな」 「ただの人間の子だ!」
反発派の司祭たちが声を荒げる。
「神の名を使い、政治に介入するなど――」
その言葉は、最後まで続かなかった。
祭壇の神紋が、光った。
一瞬。
次の瞬間、声を上げていた司祭の一人が、膝から崩れ落ちる。
「……あ?」
体が、塩のように崩れた。
恐怖が、場を支配する。
教皇ルミナス七世が、静かに前へ出た。
「神意に疑義を挟んだ」 「それだけだ」
誰も、抗議しなかった。
「反発は許そう」 「疑問も許そう」
教皇の声は冷たい。
「だが、“否定”は許されぬ」
その日以降、教会から反発派の名は消えた。
処刑ではない。
存在しなかったことにされた。
そして――
辺境伯領。
ジャックは父フォニアジークと、応接室で向かい合っていた。
珍しく、両親揃っている。
「……ジャック」 父は、言いにくそうに切り出した。
「今日、中央教会から正式な通達があった」
「うん?」
気の抜けた返事。
母サリーシャが、静かに続ける。
「あなたは……創造神の“使徒”だそうよ」
沈黙。
ジャックは、数秒固まった後――
「……あの、じいさん?」
その一言で、部屋の空気が凍る。
「多分、そう」
父が頭を抱える。
ジャックは、しばらく天井を見上げてから、ため息をついた。
「……やっぱり神様だったんだ」
「それで?」 サリーシャが恐る恐る聞く。
「どう思う?」
ジャックは少し考え、肩をすくめた。
「うーん……」 「別に、今までとやること変わらないかな」
「魔法の研究して」 「困ってる人いたら助けて」 「危ないなら止める」
ただ、それだけ。
「“使徒”って言われても、実感ないし」
フォニアジークは、苦笑した。
(だからこそ、恐ろしい……)
世界を揺らす名を与えられても、
少年は、少年のままだった。
その夜。
王は眠れず、
教会は血を流し、
敵国は震え、
そして――
一人の少年は、
次に作る薬のことを考えて眠りについた。
世界の均衡が、完全に変わった夜だった。
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