第25話 神は名を告げた
王国中央――
王都のさらに奥、政治とも軍とも異なる“聖域”。
中央教会・大聖堂。
その最深部、歴代教皇のみが立ち入ることを許された祈りの間で、教皇ルミナス七世は膝を折っていた。
床に描かれた巨大な神紋が、淡く光っている。
「……来られたか」
声は、天からではなかった。
内側から、直接響いた。
白い世界。
果てのない空間。
そこに立つのは、あの老いた姿の存在。
オッフォフォフォ、と愉快そうに笑う声。
『久しいのう、教皇よ』
教皇は即座に額を床に擦りつけた。
「創造神よ……!」
『そう畏まるでない』 『今日は、知らせに来ただけじゃ』
空間が揺らぐ。
一人の少年の姿が、光の中に映し出される。
金髪、碧眼。
幼い顔立ち。
『この者を知っておるな?』
「……辺境伯家の三男、ジャック・フォン・キルヒアイス」
教皇の声が震える。
『うむ』 『こやつは、わしの使徒じゃ』
その言葉は、世界を断ち割る宣言だった。
『よいか、教皇』 『この者の行動に、いかなる制限も課してはならん』
「……それは、王命すらも?」
教皇の問いに、創造神は愉快そうに笑った。
『王?』 『ああ、あの人間の王か』
まるで、路傍の石を思い出すような口調。
『王も法も、世界を円滑に回すための仕組みに過ぎん』 『じゃが、この者は違う』
『こやつは“可能性”そのものじゃ』
教皇の背筋に、冷たい汗が流れる。
『干渉するな』 『縛るな』 『利用するな』
『見守れ』
それだけを告げると、白い世界は静かに霧散した。
次の瞬間。
教皇は祈りの間で、荒い息を吐いていた。
「……神は、名を告げられた」
立ち上がり、鐘楼の方を見上げる。
「大司教を集めよ」 「王国全土の枢機卿へ通達だ」
その声は、震えていなかった。
「ジャック・フォン・キルヒアイスを、創造神の使徒と認定する」
「いかなる権力も、命令も、裁定も――」 「彼を縛ることは、神意への反逆と見なす」
鐘が鳴り響く。
それは祝福ではない。
宣告だった。
その頃、辺境伯領。
ジャックはくしゃみを一つする。
「……風邪かな?」
何も知らず、薬棚を整理しながら首を傾げる。
世界が、自分を中心に回り始めていることも知らずに。
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