20話 回復魔法忘れてたわ
ドラゴン討伐の後、その素材はすべて辺境伯家の地下倉庫に保管されていた。
鱗、骨、牙、血液、心核。
どれも国家級の価値を持つ代物だ。
だが俺の関心は、金でも名誉でもない。
「……鑑定」
軽く魔力を流し、対象を見据える。
次の瞬間、情報が洪水のように流れ込んできた。
ドラゴンの鱗。
高位防具素材。
薬効:高。精製により万能回復薬の基材となる。
ドラゴンの血液。
生命力凝縮体。
希釈・加工により再生薬、延命薬の原液となる。
ドラゴンの骨。
粉砕・抽出により、魔力回復薬の触媒として使用可能。
ドラゴンの心核。
超高密度生命エネルギー。
条件を満たせば――エリクサー生成可能。
俺は思わず目を輝かせた。
「……全部、薬になるじゃん」
あらゆる部位が原料。
無駄になる部分が一切ない。
これはもう、作らない理由がなかった。
「久々に、やる気出た」
誰に聞かせるでもなく呟く。
そして、ふと思い出す。
「そういえば……回復魔法、ちゃんと覚えてなかったな」
これまでは結界、空間、転移。
攻撃や制圧に偏りすぎていた。
だが薬を作るなら、
回復の理屈を理解しておく必要がある。
俺は自分の魔力を内側へ向ける。
生命の流れ。
損傷部位の情報。
再生の最適解。
魔法陣を介さず、概念を直接組み上げる。
回復魔法は、治す魔法ではない。
正確には、「元ある状態へと戻す」魔法だ。
「なるほど……」
その瞬間、理解が繋がった。
回復魔法は、
空間操作と極めて相性がいい。
壊れた部分の空間情報を固定し、
正常な状態へと上書きする。
それはもはや、
ただの回復ではなかった。
俺は笑ってしまう。
「これ、エリクサーいらない場面も出てくるな」
……いや、違う。
エリクサーは、
魔法が使えない者を救うためのものだ。
だったら。
「大量生産だな」
ドラゴン一体分。
いや、素材は十分すぎるほどある。
王国の医療事情。
戦場。
辺境の村。
救える命はいくらでもある。
俺は腕をまくった。
「さて……大量に作ろうか」
久々に、純粋に楽しいと思えた。
戦争でも、政治でもない。
ただ、作ること。
ジャック・フォン・キルヒアイス、十才。
この日、
世界にとって危険すぎる万能薬が、
量産されることが決まった。




