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後悔ばかりの男の逆転人生  作者: れんれん


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165話 病室での再会 ― 秘密の選択

面会時間は、

もうすぐ終わる。

病室の前の廊下では、

看護師の足音と、

低い声の申し送りが交錯していた。

――今しかない。

涼香は、

自分のバッグの中にある小さな瓶を、

指先で確かめた。

それは、

実の兄に預けていたものだった。

理由は言っていない。

ただ、

「絶対に開けないで」

「もしもの時まで、触らないで」

それだけを、

繰り返し頼んだ。

兄は何も聞かなかった。

聞かない代わりに、

頷いた。

エリクサー。

この世界の医療体系には、

存在しない概念。

検査も、

分析も、

再現もできない。

コピーできない。

だからこそ、

政府にも、

医師にも、

誰にも知られてはいけなかった。

涼香は、

ベッドの横に立つ。

ジャックは、

相変わらず静かだった。

呼吸はある。

心拍も安定している。

――なのに、

“戻ってこない”。

「……ごめんね」

小さく、

誰にも聞こえない声で呟く。

正しいかどうかなんて、

考えていなかった。

考えたら、

できなくなる。

「あなたが選んだ世界を、

 私は守れなかった」

「でも……

 あなただけは、守りたい」

看護師の詰所の方から、

電話の音がした。

人が一瞬、

動く気配。

今だ。

涼香は、

瓶を取り出した。

透明なガラス。

中には、

淡く光を含んだ液体。

蛍光ではない。

照明を反射しているだけでもない。

**“存在しているだけで異質”**な色。

キャップを外す音が、

やけに大きく聞こえた。

「少しだけ……」

全部は使わない。

全部使うのは、

“帰ってきた後”でいい。

ジャックの頭を、

そっと持ち上げる。

昏睡中の人間に、

液体を飲ませる行為。

それがどれほど危険か、

涼香は知っていた。

それでも。

唇に触れさせる。

一滴。

次に、

もう一滴。

喉が、

かすかに動いた。

「……っ」

涼香は、

息を止めた。

三滴目を落とした瞬間。

――モニターの心拍が、

明確に跳ねた。

規則的だった波形が、

一瞬、乱れる。

「……?」

涼香の背中を、

冷たい汗が流れる。

やりすぎた?

間違えた?

けれど。

ジャックの指が、

ほんのわずかに、動いた。

反射じゃない。

痙攣でもない。

「掴もう」とする動き。

涼香は、

反射的にその手を握った。

「……大丈夫」

「私がいる」

すると、

呼吸が変わった。

浅く、

しかし“自発的”なリズム。

エリクサーの瓶を、

急いでバッグに戻す。

痕跡は残さない。

匂いも、

色も。

ちょうどその時、

ドアがノックされた。

「奥様、

 お時間になります」

涼香は、

一度だけ振り返った。

ジャックの表情は、

まだ目覚めていない。

それでも。

“空だった器”に、

何かが戻り始めている。

「……待ってるから」

そう言い残し、

涼香は病室を出た。

彼女は知らない。

この時、

ジャックの“夢”が、

完全に途切れたことを。

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