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後悔ばかりの男の逆転人生  作者: れんれん


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163話 昏睡中のジャックが“聞いてしまう夢

暗闇だった。

だが、それは眠りの闇ではない。

無音で、無重力で、上下も前後も存在しない。

――意識だけが、沈んでいる。

体がどこにあるのか、分からない。

呼吸をしている感覚もない。

ただ、「考える」という機能だけが、

かろうじて残っていた。

(……ああ)

思考が、かすれる。

(まだ……生きてる、のか)

答えはない。

その代わり――声が、響いた。

「彼はな」

低く、疲れ切った男の声。

どこかで聞いたことがある。

だが、夢の中では輪郭が掴めない。

「国家より先に、人を守った」

声は、はっきりしていた。

やけに生々しく、

現実の重さを帯びている。

景色が、にじむ。

暗闇の向こうに、

ぼんやりとした光の輪郭。

テーブル。

グラス。

揺れる琥珀色の液体。

一人の男が、

椅子に深く座り込んでいる。

背中が、

ひどく老いて見えた。

「……馬鹿なことをした」

男は、そう呟いた。

それは非難ではない。

怒りでもない。

後悔に近い。

「命を賭ける覚悟なんて、

 若い奴がするもんだ」

グラスが、軽く机に触れる音。

「年寄りはな、

 人にやらせる覚悟しか持てん」

ジャックは、

聞いている。

聞こうとしているわけではない。

ただ、聞こえてしまう。

(……誰だ)

問いは、声にならない。

「彼は、自分が倒れた後のことを

 何一つ考えていなかった」

男は、

グラスを見つめたまま続ける。

「それが、

 英雄というやつなんだろうな」

その言葉に、

胸の奥が、ちくりと痛んだ。

(……違う)

否定したい。

だが、声が出ない。

(考えて……いた)

(家族も……仲間も……)

(でも――)

「それでも、

 国は救われた」

男は、

自分に言い聞かせるように言う。

「だから、

 誰も彼を責められない」

一拍、間。

「……誰も、だ」

その瞬間、

ジャックの意識が、わずかに揺れた。

(それは……)

(本当か?)

「責められないからこそ、

 利用したくなる」

男の声が、

低く沈む。

「守りたくもなる」

「縛りたくもなる」

景色が、

歪む。

男の顔が、

一瞬だけこちらを向いた気がした。

だが、目は合わない。

この夢は、

一方通行だ。

「――だからな」

男は、

最後にこう言った。

「目を覚ましたら、

 逃げろとは言えん」

「だが、

 “一人で背負うな”とは、

 言わせてくれ」

その言葉が、

胸の奥に、

深く沈んだ。

(……)

(逃げられ、ないよ)

答えは、

夢の中でも出ない。

光が、

遠ざかる。

声が、

溶けていく。

再び、暗闇。

だが今度は、

完全な無ではなかった。

誰かの“本音”を知ってしまった意識が、

そこに残った。

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