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後悔ばかりの男の逆転人生  作者: れんれん


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160話 翌朝 ―― 最初の発見者

朝が来たことを、

音で理解できる者は、都内にはもういなかった。

代わりに、

光だけがあった。

曇天を通して落ちてくる、輪郭のはっきりしない朝の光。

それが、割れたガラス片や、歪んだ鉄骨に反射し、

街全体が鈍く白んでいく。

東京は、生きていた。

だが、人間の気配だけが、完全に消えていた。

その中を、

一台の車両が、極端に慎重な速度で進んでいた。

自衛隊・災害初動偵察部隊。

無人を前提に投入された、

人命捜索ではなく「状況確認」だけを目的とした小部隊。

彼らの任務は単純だった。

「結界消失後の中心点を目視確認せよ」

誰も、

「生存者がいる」とは思っていない。

「……隊長」

低い声が、インカム越しに響く。

「熱源、あります」

一瞬、沈黙。

この街に、

熱源があるはずがない。

「位置」

「……交差点中央。

 倒壊物ゼロ。

 ……人型です」

その瞬間、

車内の空気が変わった。

瓦礫もない。

血もない。

焦げ跡すらない。

ただ、

人間が一人、そこに倒れている。

否、

倒れているというより――

“使い切られた”

という表現の方が近かった。

ジャックは、仰向けだった。

服は破れていない。

外傷も見当たらない。

だが、

顔色は人間のそれではない。

蒼白を通り越し、

どこか灰色に近い。

唇は乾き、

呼吸は浅く、

胸の上下が、かろうじて確認できる程度。

「……生きてる、のか……?」

誰かが、そう呟いた。

誰も、返事をしない。

隊長が、ゆっくりと近づく。

靴音が、

不自然なほど大きく響く。

膝をつき、

首元に手を伸ばす。

――脈、あり。

だが。

「……異常だ」

脈はある。

だが、安定していない。

速く、

不規則で、

しかも――

「まるで、

 限界まで酷使されたエンジンみたいだ」

医学用語ではない。

だが、誰も否定できなかった。

ジャックの指先が、

微かに震えた。

反射ではない。

痙攣でもない。

意識が戻りかけて、

 戻れない震え。

「……!」

全員が、身構える。

だが、

彼の口から出たのは――

音にならない、

空気の漏れるような声だった。

「……まだ……」

何が、まだなのか。

誰にも分からない。

隊長は、即座に判断する。

「搬送準備――いや、待て」

一瞬、言葉を切る。

彼は、周囲を見回した。

この男が倒れている場所。

半径数十メートル。

信じられないほど、完全な状態で残っている。

道路は陥没している。

建物は歪んでいる。

だが、

この一点だけが、

“守られたように”存在している。

「……確認事項を追加する」

隊長は、静かに言った。

「この人物、

 “被災者”として扱うな」

部下が息を呑む。

「本部に連絡。

 コードを切り替えろ」

「対象確認。

状態:生存。

重要度:最上位」

それは、

救助のコードではなかった。

そのとき、

ジャックのまぶたが、わずかに動いた。

ほんの一瞬、

焦点の合わない目が、空を見る。

朝の光が、

その瞳に映る。

だが、

そこに安堵はない。

あるのは――

「まだ終わっていない」と理解している者の目だけだった。

そして再び、

彼の意識は、深く沈んでいく。

この瞬間、

世界はまだ知らない。

この男が、

助けられたのか。

それとも――

捕まったのか。

後書きという名のお願い

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