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後悔ばかりの男の逆転人生  作者: れんれん


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159話 ジャック一人に集中する精神・肉体の極限へ

6月24日、午後13時40分。

ほんの数十秒前。

携帯端末から放たれた緊急地震速報の警告音が、無人の都心に不気味な残響を残していた。

人のいない東京は、あまりにも静かだった。

高層ビル群は風を受けて軋み、信号機は誰に見られることもなく点滅を繰り返す。

逃げ惑う声も、悲鳴もない。

あるのは「来る」と理解してしまった者だけが知る、異様な静寂。

ジャックは、空にいた。

飛翔魔法によって支えられた身体は、東京上空数百メートル。

だが、彼の意識はすでに日本列島全体へと引き伸ばされている。

(来る……)

魔力回路が、きしむ。

身体の奥、骨の内側に刻まれたような圧迫感。

呼吸は浅く、肺が十分に空気を取り込めない。

それでも詠唱は止めない。

次の瞬間――

地震発生。

大地が、吠えた。

都市全体が一斉に跳ね上がるような衝撃。

高層ビルのガラスが悲鳴を上げ、同時多発的に砕け散る。

コンクリートの柱がねじれ、耐震構造の限界を超えた建物が、音もなく崩れ落ちていく。

道路は裂け、アスファルトがまるで紙のように波打ち、陥没する。

地下鉄の出入口が崩壊し、暗い穴が口を開けたまま、震動に合わせて広がっていく。

東京都心の震度計は、震度7を指していた。

そのすべてを――

ジャックは、同時に感じていた。

彼は結界を展開した。

一都市ではない。

一地方でもない。

日本列島全域を覆う、大規模結界。

空間そのものに魔力を縫い付けるような感覚。

彼の精神は、限界を超えて引き伸ばされる。

(意識が……分解される……)

思考が、細切れになる。

北で揺れる大地、西で悲鳴を上げる海底、南で崩れる山脈。

それらすべてが同時に脳へ流れ込む。

歯を食いしばる。

口の端から血が垂れた。

向こうの世界ですら、

ここまでの規模は、やったことがない。

次の瞬間――

海が、立ち上がった。

真っ黒な津波。

土砂と瓦礫を巻き込み、昼間であるにも関わらず、光を拒絶するような濁流。

それが、日本列島へと牙を剥く。

報道ヘリは、結界の下、低空での撮影のみを許可されていた。

揺れる機内、震えるカメラ越しに――

それは、映った。

津波が、結界へ衝突する。

轟音。

だが、結界はびくともしない。

水の壁は、途中で止まった。

高さ、およそ20メートル。

巨大な透明の器に、黒い水が注がれ、そこで凍り付いたかのように。

まるで――

コップの中に閉じ込められた世界。

下に広がる無人の都市。

見上げるほどの高さで停止した、死の奔流。

報道陣から、言葉にならない声が漏れる。

そのすべてを支えているのが、

たった一人の人間であることを、彼らは知っていた。

ジャックの視界が、揺れる。

魔力の循環が乱れ、心拍が異常な速度で跳ね上がる。

(……まずい……)

結界は維持できている。

だが、それは彼自身を削り取ることで成り立っている。

筋肉が、断裂する寸前のように痙攣する。

骨が、内側から軋む感覚。

精神は、砕け散りそうになりながらも、無理やり形を保っている。

意識が飛べば、終わりだ。

一瞬でも集中を失えば――

日本列島は、無防備になる。

(……まだだ)

誰もいない東京。

避難が完了した都市。

だからこそ、彼はすべてを引き受ける覚悟を決めていた。

空中で、ジャックはわずかに背を反らし、結界へさらに魔力を流し込む。

その瞬間、視界が白く弾けた。

それでも、結界は――

揺るがない。

静まり返った都心。

空に浮かぶ一人の男。

止められた災厄。

この瞬間、

日本は、彼一人の精神と肉体の上に存在していた。

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