147話 最終確認―官邸の会談
首相官邸・地下会議室。
警備も、記録も、最低限に抑えられた空間。
ジャックは一人で現れた。
転移ではない。
今回は、正面から入った。
首相はすでに着席していた。
表情に感情はないが、覚悟だけが残っている顔だった。
「……最終確認だな」
首相の言葉に、ジャックはうなずく。
「はい」 「曖昧なまま進めるつもりはありません」
机の上には、何もない。
資料も、メモも。
この会談は“残らない”前提だ。
ジャックは、順に言葉を置いていく。
「一つ目」 「テレビを使います」
首相の視線がわずかに鋭くなる。
「映像は、すでに官邸が把握しているものと同等」 「未来予測の断片を、編集せずに流す」
「恐怖を煽る意図はありません」 「“選択の材料”を渡すためです」
一拍置く。
「二つ目」 「放送の後、関東圏全域に直接念話で話しかけます」
ざわめきが起きかけたが、首相が手で制した。
「内容は、避難の必要性」 「日時、想定被害、猶予」 「強制ではありません」
「判断は、国民に委ねます」
首相は低く息を吐いた。
「……混乱は避けられん」
「承知しています」
「三つ目」 「まだ時間はあります」
ジャックの声は、ここだけ少し強くなった。
「今なら、段階的な避難が可能です」 「今日や明日で全てを動かす必要はありません」
「ただし」 「動き出さなければ、意味がない」
「四つ目」 「経済活動には、確実に支障が出ます」
逃げない言い方だった。
「物流は滞る」 「株価は落ちる」 「企業は判断を迫られる」
「ですが」 「命が失われた後の経済より、まだ取り戻せます」
首相は、苦く笑った。
「政治家らしくない物言いだ」
「元々、政治家ではありません」
そして、核心。
「五つ目」 「首相、あなたと共に会見を行いたい」
一瞬、空気が凍る。
「あなたが前に立たないなら」 「これは“怪異の予言”で終わります」
「国家として動く意志があると示してください」
首相は、しばらく黙っていた。
「……覚悟を要求するな」
「要求しています」
静かな即答。
「六つ目」 「もし、この地震が来なかった場合」
ジャックは、はっきりと言った。
「今、私が持つ個人資産」 「株式、現金、海外資産」 「全てを投げ打ちます」
官邸側がざわつく。
「逃げません」 「責任を取ります」
「信頼を失うなら、それで構いません」
首相の目が、初めて揺れた。
「……本気だな」
「本気です」
最後に。
「首相」 「あなた方も、それなりの対策を講じてください」
「国債の発行」 「非常予算」 「備蓄と住宅確保」
「政治として、打てる手はあるはずです」
ジャックは、少しだけ視線を落とした。
「これは、私一人の問題ではない」 「国の選択です」
沈黙。
やがて、首相はゆっくりと立ち上がった。
「……分かった」
短いが、重い言葉。
「やるだけのことは、やる」 「その代わり――」
視線を、真っ直ぐに向ける。
「来なかったら、私は一生お前を許さない」
ジャックは、はっきりとうなずいた。
「それで結構です」
二人の間に、握手はなかった。
必要ない。
これは同盟ではない。
賭けだ。
そして、時計の針は確実に、
6月24日 13時40分へと近づいていた
後書きという名のお願い
下の★マークのタップとブックマークをお願いします。
今後の活動の励みになります。




