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後悔ばかりの男の逆転人生  作者: れんれん


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142話 一月後の進捗状況と覚悟

官邸・同じ地下会議室。

あの日から、一か月が経過していた。

壁の資料は増え、色分けされた進捗表が貼り替えられている。

赤は未着手、黄は進行中、緑は完了。

緑は、まだ少ない。

「進捗報告に入ります」

事務方の声は淡々としていたが、

その奥にある緊張は、誰の目にも見えていた。

「非常食については、国家備蓄分の1.8倍まで増産を指示済み。

 民間大手三社が水面下で協力に応じています。

 “訓練名目”での自治体配布計画も進行中です」

一人が頷く。

「住宅供与の件は?」

「地方自治体との協議は難航しています。

 理由を明かせない以上、

 “なぜ今なのか”という疑念を完全には払拭できません」

別の官僚が補足する。

「ただし、空き公営住宅・企業寮・大学宿舎のリストアップは完了。

 関東圏外での受け入れ余地は、最大で約260万人分」

室内がざわついた。

「……足りないな」

誰かが呟いた。

次の資料が映し出される。

「交通・物流について。

 大規模な事前移動は現実的ではありません。

 混乱を招けば、逆に被害が拡大する可能性があります」

「だからこそ、我々は“静かに”やっている」

総理が低く言った。

「彼の言った通りだ。

 騒げば、崩れる」

沈黙。

「他に、打てる手はないのか?」

その問いに、誰も即答できなかった。

しばらくして、一人の研究畑出身の男が口を開く。

「……正直に言います。

 科学的にできることは、ほぼ出尽くしています」

会議室の空気が重くなる。

「予測はできない。

 日時指定など、学会に出せば一笑に付される。

 それでも――」

男は言葉を選んだ。

「彼が示した“被害想定”は、

 過去の最悪ケースと、あまりにも一致している」

誰かが資料をめくる音だけが響いた。

「では、“彼”については?」

全員が一瞬、息を止めた。

「……依然として、動きはありません。

 日常は変わらず。

 仕事、家庭、交友関係。

 不審な接触も、情報操作も確認できていない」

「監視は?」

「最低限です。

 “見ている”と悟らせないレベルで」

総理が目を閉じた。

「……こちらが一番、異常だな」

誰も否定できなかった。

「結論をまとめる」

総理はゆっくりと立ち上がった。

「やれることは、やっている。

 そして、これ以上やれば、国が先に壊れる」

間を置いて、はっきりと言う。

「だから、これでいい。

 彼が言った日時まで、

 国は静かに、最大限の備えを続ける」

最後に、低い声で付け加えた。

「……来なかったら、

 我々は歴史に名を残すだろう。

 最悪の意味でな」

誰も笑わなかった。

ただ一人、誰かが心の中で思った。

――それでも。

――何もしなかった後悔よりは、ましだ。

会議は、そうしてまた静かに解散した

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