138話 すべての手段を提示する
朝でも夜でもない、曖昧な時間だった。
カーテンの外は薄明るく、街は何事もない顔をしている。
ジャックは、涼香の前に座ったまま、しばらく黙っていた。
考えているのではない。
決めていたことを、どう並べるかを整えていただけだ。
「……手段は、ある」
涼香は、言葉を挟まない。
ただ、視線で続きを促す。
「それを使えば」 「被害は、大幅に減らせる」
一拍置いて、続ける。
「ただし」 「やり方は、普通じゃない」
ジャックは、順に話し始めた。
国のトップに会いに行く
「まず、国の中枢に行く」
首相、官房、危機管理の中枢。
誰でもいい。決断できる人間。
「そこで」 「俺が何者かを隠さず話す」
能力。
未来予測。
鑑定。
転移。
結界。
干渉。
「証明もできる」 「その場で」
これは交渉ではない。
事実の提示だ。
「そして」 「防ぐ方法があることも、伝える」
時間を使った現実的な準備
「まだ、猶予はある」
ジャックの声は冷静だった。
「食料の増産」 「非常食の確保」 「物流の前倒し」
「他県に協力を求める」 「空き住宅、公共施設を避難先にする」
魔法ではなく、制度と物資。
「段階的に、関東圏の人口を減らす」 「理由は伏せてもいい」 「表向きは訓練でも、災害対策でも」
全員に“直接”伝える
ここで、涼香の表情がわずかに変わる。
「魔法を使う」
隠さない。
「関東圏内の、すべての人の頭に直接話しかける」 「念話に近いものだ」
逃げ場は、ない。
「避難を呼びかける」 「具体的な日付と時間」 「被害想定も、規模も」
「信じるかどうかは、向こう次第だ」 「でも、聞こえないことはない」
思考への介入
「正直に言う」
ジャックは、一度息を吸う。
「それだけじゃ、人は動かない」
理解していても、先延ばしにする。
自分だけは大丈夫だと思う。
「だから」 「危機感を“感じてもらう”」
言葉を選ばなかった。
「思考誘導に近い」 「魅了魔法に近い」
「避難するという選択肢を」 「現実的な“行動”として押し出す」
自由意志への介入。
明確な一線越え。
見せる
「テレビ局にも行く」
涼香が息を呑む。
「俺が見た未来予測を」 「映像として流す」
そこには、人がいる。
「親が」 「恋人が」 「知人が」
「……死んでいく未来も、映る」
残酷だ。
だが、現実だ。
「感情を揺さぶらないと」 「人は、避難しない」
津波への対処
「津波に関しては」 「結界を張る」
地図を思い浮かべるように。
「沿岸部」 「港」 「湾岸一帯」
「その間」 「飛行機と船舶の進入は止める必要がある」
経済的損失は、計り知れない。
すべてを語り終え、ジャックは静かに言った。
「……これをやれば」 「俺は、もう“普通の人間”ではいられない」
「法も」 「常識も」 「社会も」
「全部、踏み越える」
涼香の目を、まっすぐ見る。
「その結果」 「この世界に居られなくなる可能性もある」
一拍。
「君が」 「俺から離れる選択をしても」 「それは、当然だと思ってる」
それでも。
「何もしない未来だけは」 「……俺には選べない」
沈黙が落ちる。
陽のいる部屋から、かすかな寝息。
世界は、まだ何も知らない。
だが、壊す準備だけは、整っていた。
後悔ばかりの人生だった俺が
やり直しの人生をもらった意味が此処にあると
ジャックは決意する。
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