15話 家族との話し合い
――神託の儀式の、その後
神託の儀式から戻ったその日の夜。
キルヒアイス家の屋敷では、珍しく家族全員が一つの部屋に集められていた。
普段は穏やかな食堂も、今日は少し空気が張りつめている。
父――辺境伯レオン・フォン・キルヒアイス。
母――エリシア・フォン・キルヒアイス。
そして、五才になったばかりのジャック。
「ジャック」
父が静かに口を開く。
「今日の神託の儀式……何か、あったか?」
問い詰めるような口調ではない。
だが、貴族として、父として、
何かを察している声だった。
ジャックは少し考え、椅子の上で背筋を伸ばす。
「うん。あったよ」
あまりにもあっさりした返事に、母が小さく目を見開いた。
「……どんな神託を受けたの?」
「じいさんに会った」
「「……じいさん?」」
両親の声がぴたりと重なる。
ジャックは首を傾げながら続けた。
「前に夢で会ったじいさん。
今日もいて、笑ってた。
それで“加護”をくれた」
部屋の空気が、一段階重くなる。
父は一度深く息を吐き、慎重に言葉を選んだ。
「……その“じいさん”が、誰だかわかるか?」
「創造神だって」
その瞬間、
椅子が軋む音がはっきりと響いた。
父が無意識に立ち上がっていたのだ。
「創造……神……?」
母は口元に手を当て、しばらく言葉を失っている。
ジャックは不思議そうに二人を見上げた。
「やっぱり、すごい神様だったんだ?」
「……ジャック」
父はゆっくりと腰を下ろし、
真剣な眼差しで息子を見た。
「それは、
国家どころか世界の均衡に関わる話だ」
「ふーん」
全く実感のない返事。
だが父は続ける。
「だがな……一番大事なのはそこじゃない」
父は、ジャックの目線に合わせて膝を折る。
「お前は、怖くなかったか?」
少しの沈黙。
ジャックは首を横に振った。
「全然。
むしろ、面白そうだった」
その答えに、母が小さく苦笑した。
「……この子らしいわね」
父も、困ったように笑う。
「……そうだな」
そして、声を低くして言った。
「いいか、ジャック。
今日の話――創造神のことも、加護の詳細も
当分の間、誰にも話してはいけない」
「なんで?」
「お前を守るためだ」
即答だった。
「才能は、祝福にもなるが、
同時に災厄も呼ぶ」
父は貴族としての顔で続ける。
「辺境伯家でさえ、
守りきれない事態が起きかねん」
ジャックは少し考えてから、頷いた。
「わかった。じゃあ秘密ね」
あまりにも素直な返事に、両親は少し拍子抜けする。
母が優しく微笑み、頭を撫でた。
「無理だけはしないで。
あなたは……もう十分、特別なんだから」
「うん」
ジャックはそう答えながら、心の中で思う。
(魔法の可能性、まだ全然終わってないんだよな)
――こうして、
家族は“規格外の子供”を守るための決断を下した。
だが同時に、
世界はすでに静かに動き始めていた。




