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後悔ばかりの男の逆転人生  作者: れんれん


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136話 夜、見えてしまう断片

夜は深かった。

 時計の針は、とっくに日付を越えている。

 ジャックは、ベッドに横になったまま天井を見つめていた。

 隣では涼香が眠っている。

 呼吸は穏やかで、寝返りひとつ打たない。

 ――眠れない。

 目を閉じても、意識が沈まない。

 力を使おうとしていないのに、勝手に、滲むように入ってくる。

 まず、音。

 低く、長い、地鳴り。

 耳ではなく、骨に響く振動。

 次に、映像。

 夜の湾岸。

 非常灯だけが点き、信号は止まっている。

 タワーマンションの非常階段に、人が溢れている。

 ――これは、ここだ。

 心臓が跳ねる。

 次の断片。

 暗い部屋。

 倒れた本棚。

 割れた写真立て。

 誰かが、名前を呼んでいる。

 返事は、ない。

「……っ」

 ジャックは、思わず息を詰める。

 これは“結果”だ。

 原因も、経緯も、対策も見えない。

 ただ、起きたあとの世界だけ。

 次。

 救急車の赤色灯。

 数が足りない。

 担架が、追いつかない。

 人の手が、震えている。

 医療者の目が、疲弊している。

 数字が浮かびかけて、ジャックは強く目を開けた。

「……見るな」

 小さく、吐き出す。

 だが、断片は容赦しない。

 夜明け前の空。

 瓦礫の隙間から、朝日が差し込む。

 その光は、希望ではない。

 “もう戻れない時間”を照らす光だ。

 ジャックは、上体を起こした。

 額に、冷たい汗。

 喉が、ひりつく。

 ――まだ、起きていない。

 ――でも、起きる。

 それが一番、残酷だった。

 視線を、隣に移す。

 涼香は眠っている。

 無意識に、陽のいる部屋の方へ体が向いている。

 守るような姿勢。

「……」

 ジャックは、拳を握りしめる。

 ――知ってしまった者の責任。

 ――知らないふりをする自由。

 どちらも、重い。

 力を使えば、何かは変えられる。

 だが、変えたあとの世界は、もう見えない。

 ベッドの脇で、スマートフォンが小さく光った。

 何でもない通知。

 それすら、遠い。

 ジャックは、ゆっくりと息を整えた。

 ――今は、決めない。

 ――決めるなら、朝だ。

 再び横になり、そっと目を閉じる。

 断片は、まだそこにある。

 だが、今は追い払う。

 隣で眠る涼香の存在と、

 その向こうで眠る陽の未来を、

 心の中で何度も確かめながら。

 夜は、静かに進んでいった。

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