表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後悔ばかりの男の逆転人生  作者: れんれん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

147/181

134話 陽(はる)という名の息子

涼香は、ジャックとの子供に**「はる」**という名前をつけた。

 世界を救うとか。

 使命を背負うとか。

 使徒だとか、選ばれた存在だとか。

 そんな重たい言葉は、この子には関係ない。

 ただ、そこにいて。

 朝が来れば目を覚まし、

 泣いて、笑って、転んで、また立ち上がる。

 温かみのある、お日様のように。

 理由もなく昇り、

 誰に頼まれたわけでもなく照らす。

 強くなくてもいい。

 特別じゃなくてもいい。

 誰かの期待に応える必要もない。

「生きているだけで、十分だよ」

 涼香はそう語りかけるように、眠る息子の額にそっと手を置く。

 ジャックは、その光景を静かに見つめていた。

 ――この子の未来を、鑑定しない。

 ――可能性を、言葉にしない。

 この名前は、

 予言ではなく、許しだ。

 何者にもならなくていい。

 ただ、今日を生きればいい。

 陽が昇るように。

 当たり前に、ここにいていい。

 それが、二人がこの名前に込めた、

 たったひとつの願いだった。

母子手帳がテーブルの上にある

義母がそっと置いていった、あの育児ノート。

 ページの端は少し丸くなり、紙の色も新しくはない。

 何度も開かれ、何度も閉じられてきた時間が、そこにある。

 最初のページに書かれている文字を、もう一度読む。

「これは、正解ではありません

ただの記録です」

 涼香は、深く息を吸った。

 ペンを手に取る。

 インクの色は、義母と同じ黒。

 どこに書くか、少し迷ってから――

 ノートの最後の、何も書かれていないページを開いた。

 ゆっくりと、文字を綴る。

〇月〇日

今日、家に帰りました。

この子の名前は、**はる**です。

 一文字一文字、確かめるように書く。

大きな願いは込めていません。

強くなれとも、特別になれとも思っていません。

 ペン先が、ほんの一瞬止まる。

ただ、

今日と明日を、ちゃんと生きてほしい。

 涼香は、少し笑った。

もし迷ったら、

このノートを読み返します。

不安になったら、

「不安になっていい」と書いてあったことを思い出します。

 最後に、そっと一行。

この名前が、

この子の重荷になりませんように。

 ペンを置くと、肩の力が抜けた。

 そのとき、背後から気配がする。

「……書いた?」

 ジャックだった。

「うん」

 涼香は、ノートを閉じずに差し出す。

 ジャックは黙って読み、何も言わずに頷いた。

 それで十分だった。

 義母から渡された言葉は、

 今、陽の名前と一緒に、このノートに息づいている。

 アドバイスでも、命令でもない。

 ただの記録が、

 今日からは「家族の歴史」になる。

 涼香はノートを閉じ、棚にそっと置いた。

 ――いつか、陽が大きくなったら。

 ――このノートを手渡す日が来るかもしれない。

 そのときは、きっとこう言うのだ。

「正解は書いてないよ」 「でも、私たちはちゃんと迷ってきた」

 眠る陽のほうを見る。

 静かな寝息。

 当たり前の夜。

 それでいい。

 それがいい。

後書きという名のお願い

下の★マークのタップとブックマークをお願いします。

今後の活動の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ