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後悔ばかりの男の逆転人生  作者: れんれん


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133話 はじめまして、あなたが守る未来

病院の廊下は、昼下がりの光で満ちていた。

 消毒液の匂いと、遠くで聞こえる新生児の泣き声。

 その中を、涼香の両親は少し緊張した面持ちで歩いてくる。

「ここ、で合ってるのよね……」

 母は小声で確認し、父は黙って頷いた。

 仕事では何度も修羅場をくぐってきた父だが、この瞬間ばかりは落ち着かない。

 病室のドアが静かに開く。

「……どうぞ」

 ジャックの声に促され、中へ入った二人は、まず涼香の顔を見る。

 疲れているはずなのに、穏やかな表情だった。

「お疲れさま」

「ありがとう……来てくれて」

 そして、涼香の腕の中へと視線が移る。

 白い布に包まれた、小さな命。

 一瞬、言葉が消えた。

「……ちっちゃ……」

 母の声は震えていた。

 父も、思わず帽子を取り、背筋を正す。

「この子が……」

「はい。あなたたちの、孫です」

 ジャックの言葉は、静かで、誇らしげだった。

 母はゆっくりと近づき、そっと覗き込む。

 眠っているその顔を見た瞬間、目に涙が浮かぶ。

「……涼香が……お母さんに、なったのね」

 その一言で、涼香の目にも涙が滲んだ。

「うん……なんとか」

 父はしばらく黙っていたが、やがて低く言った。

「……ありがとう」

 誰に向けた言葉かは、誰も聞かなかった。

「無事に、生まれてくれて」

 ジャックはその言葉を、胸の奥で受け止める。

 ――この人たちは、何も知らない。

 世界の裏側も、力のことも。

 ただ、この命を喜んでいる。

 それでいい。

 それが、守るべき“日常”だ。

「抱いてみますか?」

 ジャックがそう言うと、父は一瞬たじろいだ。

「……俺が?」

「ぜひ」

 ぎこちない手つきで抱き上げると、赤ん坊は少しだけ身じろぎし、また眠りにつく。

「……軽いな」

 その声は、どこか敬意を帯びていた。

 母はその様子を見て、涙を拭いながら笑う。

「この子が大きくなったらね、いっぱい写真撮らなきゃ」

「それと……披露宴のアルバムも、見せてあげなきゃな」

 病室には、ただの家族の会話が流れる。

 奇跡も、秘密も、ここには持ち込まれない。

 ジャックは心の中で、静かに誓う。

 ――この人たちが、ずっと何も知らずに笑っていられるように。

 ――この子が、“普通の幸せ”の中で育つように。

 そのためなら、

 自分は影でいい。

 今日もまた、守るべき未来が、確かにここにあった。

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