閑話 可能性と重さ ― ジャックの相談
夜。
食事を終え、照明を落としたリビングで、ジャックは少し言いにくそうに口を開いた。
「……涼香。相談がある」
その声のトーンで、ただ事ではないと分かる。
涼香はソファに座り直し、静かに頷いた。
「向こうの世界の薬草を、こちらで育てられないかって思ってる」
一瞬、涼香は言葉を失う。
それが意味するものを、すぐに理解してしまったからだ。
「それができたら……今の医療、根底から変わるわね」
「うん。だからこそ、簡単じゃない」
ジャックは指を折りながら、淡々と現実を挙げていく。
厚生労働省の承認
医薬品としての臨床試験
研究機関との共同研究
医薬品販売会社の設立
既存医療・製薬業界との摩擦
「一歩間違えれば、俺たちは“危険な存在”になる」
涼香は深く息を吸い、ゆっくり吐いた。
「……壁、厚すぎるわね」
正義だから通る話ではない。
結果が良くても、過程が受け入れられなければ排除される世界だ。
「それでも、やってみたい?」
涼香の問いに、ジャックはすぐに答えなかった。
「……“今すぐ”じゃない」 「でも、“いつか”の選択肢として、考えておきたい」
沈黙のあと、涼香は静かに言った。
「じゃあ、条件を決めましょう」
彼女の目は、いつもの優しさの奥に、はっきりとした理性が宿っていた。
「今は“秘密の救済”を越えない」 「実験はしない、持ち込まない、育てない」 「もしやるなら――必ず私に最初に話す」
ジャックは苦笑して頷く。
「やっぱり、涼香がいてよかった」
「当然よ。あなた、善意だけで世界を壊しかねないんだから」
二人は小さく笑う。
そして同時に理解していた。
この提案は、
人を救う可能性と、世界を揺るがす危険性を、同時に孕んでいるということを。
今はまだ、時期ではない。
だが――未来のどこかで、この話題は必ず再び浮上する。
それだけは、二人とも確信していた。
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