125話 涼香が知ったときの反応
――「助かったこと」と「やってしまったこと」
その話を聞いたのは、夜だった。
食後、湯気の残るマグカップを両手で包みながら、
ジャックがいつもの調子で、淡々と説明する。
配信。
鑑定。
DM。
会いに行ったこと。
エリクサー。
……そして、主治医の診断結果。
涼香は、途中から言葉を失っていた。
「……助かったの?」
ようやく出た声は、かすれていた。
「うん。医学的には“説明不能”ってやつ」
ジャックは肩をすくめる。
その仕草が、
あまりにも“いつも通り”で。
涼香は、少しだけ俯いた。
「……よかった」
それは、心からの本音だった。
誰かが救われた。
命が、続いた。
それだけで、本来なら――十分なはずなのに。
数秒の沈黙。
そして、涼香は顔を上げる。
「……ねえ、ジャック」
声は静かだったが、
目が、真剣だった。
「それ、誰にも真似できないことだよね」
ジャックは、答えなかった。
それが、答えだった。
「助けたいって気持ちは、分かる」
涼香は続ける。
「でも……
知られたら、終わる」
社会が。
常識が。
そして、彼自身が。
涼香は、そっと胸に手を当てた。
生活魔法師として、
世界の“便利さ”を形にしてきた自分。
でも、これは違う。
生死の領域だ。
「……怖いよ」
小さく、正直に言った。
「ジャックが、
“神様みたいなこと”を
人間の世界でやってるのが」
ジャックは、少し困ったように笑った。
「俺も、正直……後から来た」
涼香は、はっとする。
「後から?」
「助けたい、が先で。
“やった後の世界”を、考えてなかった」
涼香は、深く息を吸った。
「……じゃあ、二人で考えよう」
そう言って、彼の手を取る。
「助けた命が、
次に何を連れてくるのか」
この“闇の治療”が呼ぶ、最初の波紋
数日後。
ネットの片隅で、
小さな書き込みが増え始める。
「あの人、
もう無理って言われてたのに普通に歩いてた」
「病院変えた?
いや、同じ主治医らしい」
「奇跡、ってレベルじゃなくない?」
医療関係者の間でも、
ささやきが生まれる。
説明不能な回復例。
再検査しても異常なし。
再発の兆候もない。
“治った”のではなく、
最初から壊れていなかったかのような数値。
そして、
別の場所では、別の人間が動き始めていた。
企業。
研究機関。
そして――
「奇跡」を商品にしようとする者たち。
涼香は、夜、ベッドの中で考える。
(助けた命は、尊い)
(でも……世界は、優しくない)
ジャックの隣で、
彼の寝顔を見つめながら、思う。
(この人は、
“できてしまう”から危ない)
だから、涼香は決める。
守る役目は、自分が引き受ける。
彼が踏み越えてしまった線を、
せめて、二人でなら引き直せるように。
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