123話 久しぶりの再会 ―― 兄弟と、その隣にいる人
都心から少し離れた、落ち着いた店だった。
個室に通されると、先に来ていた兄が立ち上がる。
「久しぶりだな」
言葉は短いが、視線は柔らかい。
隣には、涼香がいる。
「改めて、今日はありがとうございます」
そう頭を下げる涼香に、兄は苦笑した。
「もう“家族”だろ。硬くならなくていい」
その一言で、場の空気が少しほどけた。
過去の話 ―― 認められなかった時間
酒が一巡したころ、自然と昔話になる。
「正直な話さ」
兄がグラスを置く。
「昔のお前、
何を考えてるのか分からなかった」
ジャックは否定しない。
「……分かってた」
「だから認めなかった。
いや、認められなかった、が正しいな」
兄弟にしか分からない沈黙が流れる。
「でも今は?」
「今は――」
兄は涼香を見る。
「ちゃんと“守るもの”を持ってる顔だ」
ジャックは、少しだけ笑った。
若返りの薬 ―― その後の話
「でだ」
兄が前のめりになる。
「あの時飲んだ“薬”」
「どうだった?」
「どうもこうもない」
即答だった。
「十年、戻った」
体力、集中力、回復力。
仕事も家庭も、すべてが変わった。
「……正直、人生をやり直せてる気分だ」
涼香は、静かに聞いていた。
(やっぱり……すごい)
だが同時に、少し怖くもなる。
涼香の両親へ送るか?
話が一段落したところで、ジャックが涼香を見る。
「なあ、涼香」
「何?」
「……君のご両親にも、
あれを送るのはどう思う?」
一瞬、空気が張る。
「今なら、問題あるか?」
涼香はすぐには答えなかった。
“効きすぎる善意”の危険性を、
もう知っているからだ。
「……今は、いいと思う」
慎重に言葉を選ぶ。
「でも、タイミングと量は考えよう」
ジャックは頷いた。
「そうだな」
兄はそのやり取りを見て、静かに息を吐いた。
(この二人なら、大丈夫だ)
初めての告白 ―― エリクサー
そして、ジャックは少しだけ声を落とす。
「……実はもう一つある」
兄と涼香が同時に視線を向ける。
「エリクサーって呼んでる」
テーブルの下から、革袋を取り出す。
「どんな病気でも治せる薬だ」
沈黙。
兄が、ゆっくりと聞き返す。
「……何でも?」
「何でも」
涼香は言葉を失った。
(想像の一段、二段上……)
「ただし、使う場面は選ぶ」
そう前置きして、
小瓶を五本、兄の前に並べる。
「体調が優れない時だけにしてくれ」
「……重いな」
兄はそう言いながらも、
その手は震えていなかった。
「信頼されてると思って、受け取る」
涼香の心境
帰り道。
涼香は、ふと横を見る。
「ねえ、ジャック」
「ん?」
「……本当に、とんでもない人だと思う」
呆れ半分、尊敬半分。
ジャックは肩をすくめた。
「今さらだろ」
涼香は小さく笑い、
そして強く思う。
(この人の“重さ”を分け合う覚悟が、
私にはもうある)
そうでなければ、
ここには立っていない
その夜 ―― どこまで伝えるか
マンションのリビングは、照明を落としていた。
夜景だけが、静かに窓の外で瞬いている。
披露宴も終わり、来客もない。
ようやく、二人きりの時間だった。
ソファに並んで座りながら、涼香が口を開く。
「……ねえ、ジャック」
「うん」
「私の両親に、どこまで話す?」
予想していた問いだった。
ジャックは、すぐには答えない。
情報の重さ
「全部話す、という選択肢もある」
ゆっくりと言葉を置く。
「でもそれは、
一度話したら“戻せない”」
涼香は頷く。
若返りの薬。
エリクサー。
異世界。
創造神。
どれも、人生を壊しかねない情報だ。
「正直に言うとね」
涼香は、膝の上で手を組んだ。
「……信じてくれるとは思う」
「でも、
信じたあとが怖い」
守りたいからこそ、
知らなくていい現実もある。
ジャックの考え
「俺はこう考えてる」
ジャックは、明確に線を引く。
「今、伝えるのは三つまで」
指を折る。
「一つ。
俺たちはもう結婚している」
「二つ。
今後の生活は、俺が責任を持つ」
「三つ。
いざという時の“備え”はある」
涼香は顔を上げる。
「薬のことは?」
「“健康に関する備え”とだけ言う」
それ以上は言わない。
「理由を聞かれたら?」
「俺が、
過去に色々あった、とだけ答える」
嘘ではない。
だが、すべてでもない。
涼香の決断
しばらく沈黙。
やがて、涼香が息を吸う。
「……うん」
「それでいい」
彼女は、少し笑った。
「私、親だから分かるの」
「全部知るより、
安心できる方がいい時もある」
ジャックは、安堵したように肩の力を抜いた。
もしもの時の約束
「ただし」
涼香は、指を一本立てる。
「命に関わる時だけは、
その“備え”を使う」
「説明は、後でいい」
ジャックは迷わず頷く。
「約束する」
その言葉は、重く、確かだった。
夫婦としての距離
涼香は、ジャックの肩にもたれる。
「ねえ」
「私、怖くないって言ったら嘘だけど」
「でもね――」
一拍置いて、続ける。
「あなたとなら、
ちゃんと考えて選べるって思える」
ジャックは、彼女の手を握る。
「俺もだ」
守るものが増えたからこそ、
力の使い方を間違えない。
その夜、二人は
“話さないこと”を決めた。
それは、逃げではなく――
家族を守るための、最初の選択だった。
後書きという名のお願い
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