121話 優先購入権の行使
数日後。
ジャックはオンラインで届いた正式資料を静かに確認していた。
(発行価格、希薄化率、想定調達額……問題なし)
数量は多くない。
だが、確実に影響力を維持できるラインだけを狙う。
「優先購入権、行使で」
淡々とした返答。
事務担当は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに事務的な声に戻った。
「承知しました。手続きに入ります」
──これでいい。
派手に買い増す必要はない。
“残る”ことが大事だ。
非公式の打診
株式取得が確定した数日後。
社長室ではなく、小会議室。
集まっているのは
社長、COO、CTO、そしてジャック。
「今日は非公式だ。議事録も残さない」
社長の言葉に、ジャックは軽く頷く。
「こちらから提案がありまして」
ジャックは、一枚だけの簡素な資料を机に置いた。
「事業拡大についてですが、三点ほど」
① 既存事業の“横展開”
「新規事業に注力するのは賛成です。
ただ、既存事業の技術を別業界へ転用することで、初期コストを抑えられます」
CTOが思わず身を乗り出す。
「……具体例は?」
「物流、エネルギー管理、自治体向け。
“派手ではないが継続収益になる分野”です」
COOが小さく唸る。
「安定キャッシュフローか……」
② 海外展開は“段階的に”
「一気に出ると、必ず無理が出ます。
まずは現地パートナーとの共同検証から」
社長が頷いた。
「攻めすぎない、か」
「ええ。撤退しやすい形が一番強いです」
③ 人材への投資は“見えない部分”に
「表に出る開発者だけでなく、
運用・保守・教育に回す予算を最初から確保してください」
CTOが静かに笑った。
「……それを言う株主は珍しい」
「長く残ってほしいので」
ジャックはそれだけ言った。
会議の終わり
沈黙のあと、社長が口を開く。
「ジャック。
君は“口を出さない株主”だと思っていた」
「基本は、そうです」
「だが――的確だ」
社長は資料を閉じる。
「この内容、次回の戦略会議で“経営側の案”として出す」
ジャックは静かに立ち上がった。
「それで十分です」
ジャックの内心
(株は持つ。
口も出す。
だが、前に出ない)
異世界でも、現実でも。
ジャックの立ち位置は変わらない。
“静かに、流れを良くする側”。
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