120話 取締役会議に呼ばれるジャック
朝の光がオフィスを満たす中、ジャックはいつもより少しだけ緊張した足取りで会議室に向かう。
目立たないように、できるだけ後ろの席に座る。
周囲の取締役たちの視線は、特にジャックに注がれているようには見えない――しかし、自然と耳に入る会話の端々で、自分の存在が少しだけ意識されていることを感じる。
「……さて、本日の議題ですが、事業拡大に伴い追加資金獲得のため、株式を新たに発行する件です」
会議の司会者の声が、静かに響く。
ジャックは、自分に関係があるのかないのか、不思議に思いながらメモを取る。
株式の発行額、配分、そして既存株主との兼ね合い――説明は淡々と進む。
ジャックは、頭の片隅で考えていた。
(なるほど……これで会社の資本が増える、と)
追加資金がどう使われるのか、どの株主がどう影響を受けるのか。
すべてが精緻に計算されている。
そして、議題の説明の中で、自分が持つ株式や資産の影響範囲についても触れられる。
目立たないようにしている自分でも、自然と注目される存在なのだと、改めて認識する。
(……こういう時、目立たないようにするのも大事だけど、完全に隠せるわけじゃないんだな)
議題は淡々と進む。
追加資金獲得のための株式発行、発行価格、配分比率――細かい数字が飛び交う中、ジャックは静かにメモを取る。
自分に直接声がかかるわけではないが、自然と意識されている存在であることは感じる。
説明を聞きながら、ジャックの頭の中では次々と計算が巡る。
(なるほど……この新株発行で、主要株主の持分比率はどう変わる?
もし、この株を引き受けるのが特定の投資家なら、経営方針に影響が出るな……)
説明者が「取締役の承認をお願いします」と告げる前に、ジャックは手元の資料を見つめた。
数字の変化、潜在的な株式の流動、既存株主の反応――すべてを頭の中で整理する。
(これは……単なる資金調達じゃない。
会社をどう動かしたいか、経営陣の思惑が透けて見える)
ジャックは、静かに頷く。
目立たず、しかし確実に状況を把握する。
自分の持株がどう作用するか、誰に注意すべきか――冷静に読み解いていく。
周囲の取締役が意見を出し合い、賛成や反対を表明する中、ジャックは発言せず観察を続ける。
議論の流れを追いながら、自分の戦略も同時に描く。
(……ここで行動すれば、会社の方向性を少しずつでも動かせるかもしれない。
でも、まずは影から様子を見るのが得策だな)
会議が終わり、議事録に署名する際も、ジャックは静かにペンを走らせる。
表面上はただの取締役、だがその視線は、すでに次の一手を計算していた。
ジャックは、静かに自分の席で頷きながら、次の発言を待った
会議室を出たジャックは、静かな廊下の一角で立ち止まった。
頭の中では、さっきの取締役会議の数字や議論の内容が、パズルのように組み合わさっていた。
(追加株式の発行……このまま全て引き受けると、既存株主の比率は下がる。
けど、戦略的に考えれば……)
彼はメモ帳を取り出し、簡単な図を描き始める。
発行株式数
主要株主の保有比率
自分の株式の影響範囲
可能な資金運用と経営参加の余地
(なるほど……この株式を少し動かすだけで、経営方針に微調整が利く。
もちろん、表面には出ず、自然に進めることが大事だな)
ジャックの指が、図の上を軽くなぞる。
そこに浮かぶのは、目立たず、しかし確実に影響力を持つ自分の姿だ。
思考の中で、次のステップを描く。
新規投資家との関係構築
社内での情報収集を継続
必要に応じて、経営陣への非公式の提案
(こうやって進めれば、会社の資本構成も経営方針も、自分に有利な形に少しずつ寄せられる。
しかし、急がず焦らず……表面は静かに)
ジャックは深く息をつき、ポケットに手を入れる。
その手には、控えめながらも、この会社での自分の影響力という確かな手応えがあった。
心の中で、涼香の顔が浮かぶ。
(……涼香には、こういう裏事情は知らなくていい。
俺が動かすべきは、あくまで表の世界じゃなく、この見えない世界だ)
ジャックは、静かに歩き出す。
次の一手も、すでに頭の中で組み上がっていた。
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