117話 披露宴の計画での一幕とお父さんの暴走
母が披露宴の席次とドレスの話を始めて止まらない
父が資料を揃え、「なら、いい」と言った瞬間だった。
「――披露宴は、いつにするの?」
母が、ぱっと顔を上げた。
空気が変わる。
「え、えっと……」 涼香が言葉を探すより早く、母は続ける。
「親族はどこまで呼ぶ?」 「ジャックさん側は?」 「会社関係は? 友人は?」
「お母さん、ちょっと待って――」
「待てないわ」
即答だった。
母は、すでに自分のスマホを取り出している。
「席次はね、ここ大事なの」 「年配の方は動線が短い方がいいし」 「涼香の友達は固めた方が楽しいでしょ?」
ジャックが、静かに手を挙げる。
「あの、披露宴の規模は――」
「百人未満よね?」 「でも少なすぎるのも寂しいわ」
もう決まっている。
「ホテルは?」 「海が見えるところがいいわよね」 「湾岸なら、あそこか、あそこか……」
涼香は、ぽかんとした。
「お母さん……そんなに考えてたの?」
母は、少しだけ声を落とした。
「……考えてたわよ」
一瞬の間。
「だって」 「結婚式、してないままだったでしょ?」
涼香の胸が、きゅっとなる。
「ドレスだって」 「ちゃんと選ばせてあげたい」
母は、少し笑って続けた。
「似合うの、分かってるのよ」 「あなた、シンプルなのが一番きれいなんだから」
父が、咳払いを一つ。
「……披露宴は、本人たちの意向も――」
「あなたは黙ってて」
秒で封じられた。
「お父さんは、バージンロード歩くだけでいいの」 「それ以外は、私の仕事」
父は、黙ってお茶を飲んだ。
ジャックは、涼香を見る。
涼香は、少し照れながら、でも嬉しそうに笑った。
「……お願いします」
その一言で、母の目が潤む。
「任せなさい」 「一生忘れられない日にするから」
この時、誰も気づいていなかった。
数日後、さらに恐ろしい事態が待っていることを。
内覧当日、父がメジャー持参で現れる
湾岸沿いの高層マンション。
快晴。見晴らし抜群。
エントランス前で待っていると――
「……あれ?」
涼香が首をかしげた。
父が、メジャーを首から下げて立っていた。
「お父さん?」
「念のためだ」
即答。
「モデルルームは信用しない」 「実寸を見る」
ジャックは、一瞬だけ目を見開いたが、すぐに頷いた。
「どうぞ」
室内に入った瞬間、父は動いた。
「天井高……」 シャッ。
「リビング幅……」 シャッ。
「柱の食い込み……」 シャッ。
営業担当が、完全に置いていかれている。
「ここにダイニングテーブル置くと」 「動線は――」
母が呆れ顔で言う。
「あなた、住むの?」
「住まない」 「だが把握はする」
父は、次にバルコニーへ出た。
「手すり高は問題ないな」 「子供が立っても危険は少ない」
その言葉に、涼香がはっとする。
「……そこまで考えてるの?」
父は、少しだけ間を置いた。
「当たり前だ」
「孫が走り回る前提で考える」
涼香の目が、じんわりと潤む。
ジャックは、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
父は、ちらりと見るだけ。
「俺は、測っただけだ」
そう言いながら、最後に一言。
「……悪くない」
それは、父にとって最大級の賛辞だった。
母が、小さく笑う。
「もう決まりね」
涼香は、窓の外に広がる海を見た。
(ここが、帰る場所になるんだ)
そう思った瞬間、
胸の奥が、温かくなった。
後書きという名のお願い
下の★マークのタップと感想とブックマークもお願いします。
今後の励みになります。




