114話 さぁ、涼香の両親に会いに行こう
入籍は、もう済んでいる。
指輪もある。
書類も出した。
夫婦としての実感も、確かにある。
その後――
ジャックの故郷へ行き、
涼香は生活魔法師という、向こうの世界のスキルを得た。
水に触れずに整う感覚。
疲れを一瞬でほどく魔法。
日常を、少しだけ“優しくする力”。
それらを胸の奥にしまい込んだまま、
二人は東京へ戻ってきた。
そして、現実が動き出す。
「これからの生活を考えたらさ」 ジャックは、いつもの落ち着いた声で言った。 「住まいは、早めに決めた方がいい」
それはもっともで、 だからこそ――
「……それで」 涼香は、少しだけ言葉を選んだ。 「どうして、もう一軒なの?」
ジャックは、迷わなかった。
「君のご両親にも、来てもらいたい」
涼香は、息を呑んだ。
隣同士の新居。
将来、子供ができたとき。
不安なとき。
誰かが、すぐそばにいるという選択。
合理的で、優しくて、 でも――簡単には受け取れない提案だった。
「遠慮しなくていい」 「これは“家族”の話だろ?」
そう言われてしまえば、 もう、反論はできなかった。
そして今日。
こちらの世界での披露宴――
その話も含めて、
涼香の両親に、きちんと伝える日。
ジャックの正体も。
向こうの世界も。
生活魔法師という言葉すらも。
――何も知らない、両親に。
玄関で靴を履きながら、 涼香は、ふと手を止めた。
「……ねえ、ジャック」
「ん?」
「もし、全部を知ったら」 「お父さんとお母さん、驚くよね」
ジャックは、少し考えてから答えた。
「驚くだろうな」 「でも、怖がらせる必要はない」
その言葉は、 どこか“経験者”のものだった。
「今日は、僕たちの人生の話をする日だ」 「世界の話じゃない」
涼香は、小さく笑った。 ――救われる言い方だ、と思った。
ドアを開ける。
いつも通りの東京の空気。
いつも通りの街。
でも、今日だけは違う。
(私はもう、戻ってきた人間じゃない) (それでも、この世界で生きていく)
ジャックが、自然に手を差し出す。
涼香は、その手を取った。
隠し事は、まだある。
でも、嘘はついていない。
今はただ――
娘として、妻として、未来の話をしに行く。
「……行こうか」
「ああ」
さぁ、
涼香の両親に会いに行こう。
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