104話 里帰りと結婚の報告1
ジャックの部屋には、控えめな照明と、整然と並んだ荷物があった。
箱の数は多いが、雑然としていない。
すべてに「理由」がある並び方だった。
「……これで全部、揃った」
ジャックはそう言って、少し肩の力を抜いた。
向こうの世界へ持っていくもの。
技術面の資料、再現可能な道具、現地で役立つ物資。
そして――一番奥に、大切に包まれた箱。
「これは、創造神様への贈り物」
そう言う声は、淡々としているのに、どこか慎重だった。
涼香はソファに座り、荷物を見渡しながら小さく頷く。
「前から、少しずつ集めてたんだね」
「急に揃えると抜けが出るから」
そう答えるジャックは、いつも通り穏やかだ。
涼香は、しばらく黙って箱を見ていた。
その視線は、否定でも疑いでもない。ただ、考えている。
(……正直に言えば)
涼香は心の中で、そう思う。
(神様が“本当にいる”とは、思ってなかった)
神社も、お寺も、身近にある。
初詣もするし、お守りも買う。
でもそれは――
(行事、だった)
季節の区切り。
気持ちを整えるための、習慣。
誰かが実際にそこに「いる」なんて、
考えたことはなかった。
(だから、最初に聞いたときも)
創造神、という言葉を、
比喩か、彼の生き方を説明するための表現だと思っていた。
けれど。
目の前にあるこの箱は、違う。
(これは……)
祈りでも、儀式でもない。
「贈り物」だ。
相手が存在している前提で、
何を選び、どう渡すかを、真剣に考えた跡。
涼香は、ジャックを見る。
彼は、誇張もしないし、
信じてほしいとも言わない。
ただ、
「準備が整った」
そう報告しているだけだ。
(この人にとっては)
(神様がいるかどうか、じゃないんだ)
(“いる世界を生きてきた”だけ)
涼香は、静かに息を吐く。
「……私ね」
ジャックが顔を向ける。
「神様がいるって、実感したことはない」
正直な言葉だった。
「神社もお寺も、
イベントみたいなものだと思ってた」
一瞬、沈黙。
でもジャックは、何も言わず、ただ聞いている。
「でも」
涼香は続ける。
「あなたが、こうして準備してるのを見ると」
「“信じる・信じない”の話じゃないって分かる」
そっと、箱に視線を戻す。
「大事な存在がいるってことは、伝わる」
ジャックは、小さくうなずいた。
「それで十分だよ」
無理に同意させる気も、
説明し尽くす気もない声音。
涼香の胸が、少しだけ温かくなる。
(この人は、
私を“連れていく”んじゃなくて)
(“一緒に行こう”って言ってる)
理解は、これからでいい。
実感は、後からついてくるかもしれない。
今はただ――
「準備ができたんだね」
「うん」
「じゃあ……私も、心の準備、少しずつしないとね」
そう言って笑う涼香を見て、
ジャックは静かに安心した。
世界が違っても。
価値観が違っても。
歩幅を合わせることは、できる。
お正月は、もうすぐそこまで来ていた。
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