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後悔ばかりの男の逆転人生  作者: れんれん


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102話 ジャックの決意と告白

十二月二十四日。

夜の街は光で満ちていた。

イルミネーション、行き交う人々、どこか浮ついた空気。

それなのに、ジャックの胸の内は驚くほど静かだった。

(この日だ)

選んだのは、派手なレストランでも、特別なイベントでもない。

二人で何度か来た、川沿いの静かな場所。

冬の空気は澄んでいて、吐く息が白くほどける。

「寒くない?」

「うん、大丈夫」

涼香はマフラーに顔をうずめて微笑った。

その横顔を見た瞬間、ジャックは確信する。

――何度生まれ変わっても、俺はこの人を選ぶ。

足を止め、夜景を背にして向き直る。

「涼香」

いつもより少しだけ、真剣な声。

涼香も、すぐに空気の変化を感じ取った。

「どうしたの?」

ジャックはポケットに手を入れ、

小さなケースを取り出す。

一瞬、世界の音が遠のいた。

「俺さ……」

言葉を探す必要はなかった。

この日のために、何度も心の中で繰り返してきた。

「完璧な人間じゃない」

「隠してきたこともあるし、これから話さなきゃいけないことも、まだ残ってる」

ケースを握る手に、力がこもる。

「それでも」

「涼香と生きる未来だけは、もう迷わないって決めた」

ゆっくりと、ケースを開く。

淡い光。

柔らかなピンクのダイアモンドが、冬の夜を映して輝く。

涼香は、言葉を失っていた。

「世界がどこにあろうと」

「どんな道を選ぶことになっても」

一歩、距離を縮める。

「俺の隣にいてほしい」

そして、はっきりと。

「結婚してください」

静寂。

遠くの笑い声も、車の音も、すべて背景に溶ける。

涼香の目に、ゆっくりと涙が溜まっていく。

「……ずるい」

そう言って、笑った。

涙を浮かべたまま。

「そんな覚悟の顔で言われたら、断れるわけないでしょ」

ジャックの喉が、鳴る。

「私ね」

指輪を見つめながら、続ける。

「あなたと出会ってから、怖いことも増えた」

「でもそれ以上に、未来を想像するようになった」

顔を上げて、まっすぐ見る。

「一緒に生きたいって、何度も思った」

小さく、でも確かな声で。

「はい。よろしくお願いします」

指輪を受け取る手が、少し震えていた。

ジャックは、そっと彼女の指に指輪を通す。

ぴたりと収まる。

――最初から、そこにあるべきものだったみたいに。

涼香は指輪を見つめ、そしてジャックを見る。

「……本当に、クリスマスだね」

ジャックは、堪えきれず笑った。

「一生忘れない日になった」

二人は自然と抱き合う。

寒さなんて、もう感じなかった。

この夜、

約束は言葉だけじゃなく、生き方になった。

そしてこのプロポーズは、

向こうの世界へ続く未来の、

最初の「扉」だった。


その夜、涼香は実家にいた。

リビングには、いつもの空気。

テレビの音、父の咳払い、母が用意した温かいお茶の匂い。

それなのに、涼香の胸は落ち着かなかった。

左手の薬指。

何度も視線がそこへ行く。

(言うんだよ、今日は)

深呼吸を一つ。

「お父さん、お母さん」

少しだけ、声が硬くなる。

「大事な話があるの」

母が箸を置き、父が新聞から顔を上げる。

「どうした?」

涼香は、椅子に座り直し、背筋を伸ばした。

「……私、結婚しようと思ってる」

一瞬の沈黙。

次の瞬間、母が息を吸う音がはっきり聞こえた。

「結婚?」

父はゆっくりと涼香を見る。

「急だな」

「うん。でも、勢いじゃない」

涼香は、左手をそっと差し出す。

指輪の光が、照明を受けて静かに輝く。

母が目を見開く。

「まぁ……綺麗」

父は黙ったまま、涼香の顔をじっと見ている。

「相手は……」

「ジャックさん」

名前を出した瞬間、胸が少し軽くなった。

「前に話した人よ。東京で配信してて、今は同じ会社で働いてる人」

父が腕を組む。

「どんな男だ」

涼香は、すぐには答えなかった。

言葉を選ぶ。

「静かで、優しくて」

「自分のことより、人のことを先に考える人」

少し笑う。

「不器用だけど、嘘をつかない」

母がそっと尋ねる。

「本当に、大丈夫なの?」

その問いは、心配だった。

涼香は、はっきりとうなずく。

「大丈夫」

「この人となら、どんなことがあっても逃げないって思える」

父は、長く息を吐いた。

「……覚悟はあるんだな」

「あるよ」

涼香の声は、驚くほど落ち着いていた。

「守ってもらうだけじゃなくて、

 私も一緒に守っていくって決めた」

母の目が、少し潤む。

「そんな顔、久しぶりに見たわ」

父は立ち上がり、窓の外を一度見てから振り返る。

「会わせてくれ」

短い一言だった。

「ちゃんと話を聞きたい」

涼香の胸が、じんと熱くなる。

「……ありがとう」

母は笑って言った。

「でも、緊張してもらわないとね」

その言葉に、三人で小さく笑う。

部屋に、やわらかな空気が戻る。

その夜、涼香は布団に入り、天井を見つめた。

左手を胸の上に置く。

(伝えられた)

不安が消えたわけじゃない。

でも、もう一人じゃない。

スマホを手に取り、短いメッセージを送る。

「ちゃんと話したよ。

 会ってくれるって」

すぐに返事が来る。

「ありがとう。必ず大切にします」

涼香は、目を閉じた。

(この人と、未来を生きる)

それはもう、迷いじゃなかった。

後書きという名のお願い

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