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後悔ばかりの男の逆転人生  作者: れんれん


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97話 ジャックの悩み ――言えない真実

部屋は静かで、時計の秒針の音だけが、やけに大きく聞こえていた。

涼香はもう眠っている。

穏やかな寝息。

安心しきった表情。

それを見て、ジャックの胸が、少しだけ苦しくなる。

(……言えない)

今の自分は、

彼女にとって「普通の青年」だ。

仕事をして、

一緒に食事をして、

笑って、悩んで、未来を考える。

それが、心地いい。

(このままで、いたい)

でも同時に、

胸の奥で小さな棘のようなものが、ずっと引っかかっている。

――異世界から来たこと。

――前世の記憶があること。

――魔法や、神獣や、普通じゃない出来事。

そんな話を、

今の涼香に打ち明けたらどうなる?

(……引くよな)

頭ではわかっている。

信じられない話だ。

現実的じゃない。

突然そんなことを言い出したら、

「変な人」

「何かにハマってる?」

「疲れてるんじゃない?」

そう思われても、無理はない。

(嫌われるかもしれない)

その可能性が、

今のジャックには、何より怖かった。

前世では、

理解されないことに慣れていた。

孤独も、諦めも、受け入れていた。

でも今は違う。

(失いたくない)

涼香の笑顔。

何気ない会話。

隣にいる時間。

それらが、

あまりにも大切になってしまった。

ジャックは、そっと布団を整え、

起こさないように静かに息を吐く。

(……まだ、いいか)

今すぐ言わなくてもいい。

急ぐ必要はない。

そう、自分に言い聞かせる。

(普通の青年として、

もう少しだけ、そばにいさせてほしい)

それは嘘じゃない。

逃げでもない。

ただ、

彼女を大切に思うがゆえの、

臆病さだった。

ジャックは天井を見つめながら、

静かに目を閉じる。

(いつか、ちゃんと話す)

その「いつか」が、

来るのかどうかは、まだわからない。

けれど今夜は、

このぬくもりを失わないことだけを、選んだ。


涼香の気づき ――「何か、隠してる?」

最初は、ほんの些細なことだった。

ジャックが、ふと遠くを見るような目をする瞬間。

問いかけると、少し間を置いてから笑うところ。

「どうしたの?」と聞いても、

「ううん、なんでもないよ」と返される、その声のトーン。

(……前と、少し違う)

涼香は、無意識のうちにそう感じていた。

一緒にいる時間は変わらない。

優しさも、気遣いも、むしろ増えている。

だからこそ、余計に気づいてしまう。

(隠そうとしてる)

嘘をついている感じではない。

何かを誤魔化しているわけでもない。

ただ――

「言わないでいる」ことを選んでいる気配。

夜、並んで歯を磨いているとき。

鏡越しに見たジャックの横顔。

一瞬だけ、

とても疲れたような、

迷っているような表情をしていた。

(……あ)

胸が、少しだけ痛む。

(私に言えないこと?

それとも、言いたくないこと?)

答えはわからない。

でも、確かなことが一つあった。

――自分は、もう他人じゃない。

気づかないふりをするのは、簡単だ。

問い詰めることも、できる。

でも涼香は、どちらも選ばなかった。

(待とう)

無理に聞き出したくない。

追い詰めたくもない。

それに――

ジャックが何かを抱えているなら、

それごと、受け止めたいと思ってしまった。

ソファで隣に座ったとき、

涼香は何気なく言う。

「ねえ」

「ん?」

「……無理しなくていいからね」

それだけ。

ジャックは一瞬、驚いた顔をして、

それから少しだけ、力の抜けた笑顔を見せた。

「……ありがとう」

その短いやり取りで、

涼香は確信する。

(やっぱり、何かある)

でも同時に、

その笑顔に嘘はなかった。

(大丈夫。

この人は、私から逃げない)

だから涼香は、急がない。

聞くべきときが来るまで、

そばにいる。

彼が、自分の言葉で話せるようになるまで。

(それが、恋人でいるってことだよね)

涼香は、そっとジャックの手を握る。

強くはないけれど、

離れない温度で。

後書きという名のお願い 面白い、こんな展開もありと思った方は 下の★マークをタップ 感想やご意見お待ちしてます

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