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後悔ばかりの男の逆転人生  作者: れんれん


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94話 涼香の心の声

……あ。

そう思ったのが、最初だった。

驚いたはずなのに、嫌じゃなかった。

むしろ、胸の奥がじんわりと熱くなっていくのを感じていた。

(……キス、しちゃった)

唇が離れたあとも、

ジャックさんの体温がまだ近くに残っている。

抱き寄せられた腕の感触も、

さっきまで聞こえていた心臓の音も。

全部、まだ消えてくれない。

(どうして……こんなに落ち着くんだろう)

緊張しているはずなのに、

胸は苦しくなくて、

不安もない。

ただ、静かに満たされている。

仕事の同僚で、

恋人で、

それなのに、どこか昔から知っていたみたいな人。

(……ずるいな)

優しくて、

押しつけがましくなくて、

気づいたら、すぐそばにいる。

「好き」って言葉を使わなくても、

この距離、この沈黙で、全部伝わってしまう。

涼香は、そっと息を整えながら思う。

(……もう、戻れないかも)

でも、それでいい。

怖さよりも、安心のほうがずっと大きい。

今はただ、

この人の隣にいる時間を、

もう少しだけ大切にしたい。

(……今日、来てよかった)

そう心の中でつぶやいて、

涼香は小さく、誰にも聞こえないくらいの笑顔を浮かべた。


夜は静かで、

窓の外の灯りだけが、ゆっくりと揺れていた。

言葉は多くなかった。

触れる手も、確かめるようで、急ぐことはない。

二人は自然に近づき、

そのまま、ひとつの時間を共有した。

それは甘く、

やわらかく、

心まで溶けていくような経験だった。

終わったあと、

しばらく何も言えずに、ただ同じ温度の中にいた。

やがて、ジャックが小さく息を吸う。

「……涼香さん」

少し迷ってから、正直に言う。

「俺……こういうの、初めてなんだ」

強がりも、照れ隠しもなかった。

ただの事実を、静かに差し出すように。

一瞬、涼香は驚いた表情を見せたあと、

すぐにやわらかく微笑む。

「……そうなんだ」

何も責めず、

何もからかわず。

涼香はそっとジャックを抱き寄せる。

頭を撫でるでもなく、

ただ包むように。

「大丈夫。

ゆっくりでいいよ」

その一言と、その温もりが、

ジャックの胸の奥に、深く染み込んだ。

前世で抱えていた劣等感も、

届かないと思っていた距離も、

この腕の中では、もう意味を持たなかった。

(……ああ)

ジャックは目を閉じる。

(今度こそ、ちゃんと手に入れた)

涼香は静かに思う。

(この人は、

きっと、私が思っているよりずっと純粋で、

大切にしなきゃいけない人)

夜はまだ続いていた。

けれど二人の間には、

もう迷いはなかった。


朝の光が、静かにカーテンの隙間から差し込んでいた。

涼香は目を覚まし、すぐ隣で眠るジャックの寝顔を見る。

穏やかで、無防備で、

昨夜までの緊張や不安が嘘のように、静かだった。

(……この人)

胸の奥が、きゅっと小さく締めつけられる。

強い人だと思っていた。

余裕があって、落ち着いていて、

どこか“全部わかっている”人だと。

でも――

昨夜、ジャックが見せた表情と、

「初めてだ」と静かに打ち明けた声。

それは、涼香が今まで見たことのないほど、

正直で、繊細で、傷つきやすい一面だった。

(……こんな顔、誰にでも見せるわけじゃない)

そう思った瞬間、

胸の奥で何かが、はっきりと形を持った。

恋とか、

好きとか、

そういう言葉よりも、もっと静かで重い感情。

(守りたい)

この人が、

自分を卑下しなくていいように。

過去を恥じなくていいように。

自分の価値を疑わなくていいように。

涼香は、そっとジャックの寝顔に近づき、

起こさないように小さく息を整える。

(大丈夫だよ)

声には出さず、心の中でだけそう言う。

(あなたは、ちゃんと大切にされていい人)

それは、

「守ってあげる」なんて上からのものじゃない。

隣に立つ。

同じ目線で。

一緒に歩く。

その覚悟が、静かに、確かに芽生えていた。

涼香はゆっくりと背筋を伸ばし、

新しい一日を迎える準備をする。

(……この人の隣にいる未来、

ちゃんと向き合っていこう)

窓の外では、

いつもと変わらない朝が始まっていた。

でも涼香の心だけは、

確実に、ひとつ前の自分とは違っていた。

後書きという名のお願い 面白い、こんな展開もありと思った方は 下の★マークをタップ 感想やご意見お待ちしてます

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