本の紹介33『猫と針金』デイヴィッド・ハンドラー/著
ビターなストーリーとユーモア溢れるやりとりが魅力。大ヒット映画の続編制作に忍び寄る死の影。
ハンドラーのホーギーシリーズは海外ミステリーの中でも特にお気に入りです。
主人公のホーギーはベストセラー作家として文学界で脚光を浴びた過去を持ちながら、その後ヒット作に恵まれずにゴーストライターとして生計を立てています。富豪やミュージシャン、大物俳優などの著名人から依頼を受けて自伝などの執筆を代行することになるのですが、取材をする中で依頼人にまつわる事件に巻き込まれているというのがシリーズの基本の展開です。
ホーギーのバディとして活躍するのが愛犬のルルです。フォックスハウンドという犬種で、非常に表情豊かな様子が描写されており、仕草がいちいち印象的です。人間の行動が分かっているかのような行動を取ることも多く、ミステリー作品でここまでキャラが立っている犬はそうそういないのではないでしょうか。
ルルとの掛け合いや、離婚した奥さんとの微妙な距離感の付き合いなど、ミステリー以外の部分も魅力的なのですが、意表をつくようなトリックや予想外な展開も出て来るので、娯楽小説として理想的なバランスが成立していると感じます。
本作でホーギーは大ヒット映画の続編の脚本執筆を依頼されます。依頼者は映画の原作小説の作者の娘で、ホーギーが依頼人の無茶な要求に悪戦苦闘しているうちに、映画関係者が殺害されるというストーリーです。大ヒット映画でありながらずっと続編が制作されていなかったのは何故か、なぜ今になって続編の企画が動き出したのかという点がストーリーを牽引していきます。
物語はホーギーの一人称で展開するのですが、その語り口が非常に洒落ています。日常生活で口にしてもギリギリ気障にならないような絶妙な按配です。文章で真似しようとすると非常に難しい気がしますが。
ホーギーはハードボイルドな性格という訳ではなく、ちょっと情けないところがあるのが特徴であり、魅力となっています。愛犬のルルに背中を押されて行動を始めたり、別れた奥さんへの未練を断ち切れずにいたりするところが人間味を強くしています。
探偵でも警察関係者でもない立場の主人公であり、この場合、行動原理の描写が非常に大切だと感じます。ミステリー作品に触れる際、事件に対し公的な責任がない人間がなぜ事件解決に尽力するのかという点に説得力がないとお話にのめり込めないのですが、この点、ホーギーは仕事への信条や良心に後押しされて行動していることがしっかりと描写されています。ユーモアのセンスがあるのと同時にナイーブなところもあり、自分の仕事が原因で起きてしまった悲劇に対して落ち込み、自責の念に悩む場面も出てきます。
ホーギーの仕事相手は基本的に社会的な成功者なのですが、その栄光を手に入れるために闇に葬られた出来事や人間が、時を超えて事件発生の原因となって迫って来るというストーリーになっています。成功や発展をただ肯定するのではなく、そのために失われたもの、犠牲になったものに光を当てるような視線が魅力的ですね。終わり




