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RE:スタート・ブルー ―止まった僕の青春が、君と出会って動き出した―  作者: 宵宮ミレ


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第25話「指先の勇気」

 夜。自室のベッドに腰を下ろし、スマホをいじっていた。

 

 ショッピングモールから帰って数時間。胸の奥にまだ、あの賑やかな時間の余韻が残っていた。


 ――今日も、楽しかったな。


 乃亜も朝霧さんと自然に話せるようになってきたし、三人で笑い合っている姿を見ているのは悪くなかった。

 

 そう思いながら、無意識のうちにRINEを開く。

 

 夢中探し部のグループチャット。最後のやり取りは陽菜の「また何かしようね!」で終わっていた。


 その文字列をぼんやり眺めているうちに、指が勝手に動いていた。


 悠斗:GWあたりで、みんなでどこか行かないか?


 送信。


(え、待て。今の、大丈夫か?)


 送ってから急に不安になる。唐突すぎたかもしれない。

 

 みんな予定あるかもしれないし、「また今度ね」で流されるパターンかも――。


 変な焦りが胸に広がって、スマホを伏せた。


 天井を見上げながら、深く息を吐く。


(やっぱり、もう少し考えてからにすればよかったかもな)


 最近の自分はらしくない。そんなことを思っていた矢先、枕元のスマホが震えた。

 

 RINEの通知音が立て続けに鳴る。


 陽菜:いいじゃん!行こ行こ!

 颯真:遠出もアリだな。

 澄玲:ぜひぜひ。楽しみです。

 乃亜:乃亜も行く!


 次々に返ってくる返信の通知。胸の奥の不安が、音を立ててほどけていく。


(そんな奴らじゃないって、分かってるのにな)


 思わず、小さく笑みが漏れた。


 もう一度画面を開くと、陽菜が早速ノリノリで会話を進めていた。


 陽菜:どこ行く? 海? 山?

 颯真:いくら何でも海は早すぎるだろ。

 陽菜:うるさい! じゃあどこがいいの!

 颯真:なんでキレ気味なんだよ……

 澄玲:まだこの辺り詳しくないので、お任せしてもいいですか?

 乃亜:乃亜はお兄ちゃんと一緒ならどこでもいいよ。


 テンポよく流れる文字列を追いながら、口元が自然と緩む。画面の向こうに、それぞれの声が浮かぶ。


 悠斗:ちょっと考えてみるよ。日程も含めて明日にでもまた話そう。


 そうメッセージを打ち込み、スマホを伏せてベッドに仰向けになる。


 胸の奥がじんわりと温かくなった。


(……楽しみだな)


 小さく息を吐いて、静かな部屋の中で目を閉じた。


 スマホの光が消えたあとも、画面の向こうの笑い声が、どこか近くに感じられた。


 * * *


 翌日。


 四月も半ばを過ぎ、クラス替えを経た教室の空気にもようやく落ち着きが出てきた。


 始業式の緊張感はすっかり消え、席の周囲では笑い声や雑談が飛び交っている。


 新学期が始まってから数週間――最初のぎこちなさはなくなり、自然とグループができあがっていた。


 気づけば、この教室の中にも“それぞれの居場所”ができている。


 陽菜はというと――やっぱり女子の輪の中心だ。明るくて、気配りができて、そして少しお節介。


 その性格が周囲を惹きつけるのだろう。


 彼女の周りでは常に笑い声が絶えず、身振り手振りを交えながら話す姿はまるでクラスの空気を明るく灯しているみたいだった。


 少し離れた席から見ているだけでも、教室全体がやわらかく温かい空気に包まれていく気がする。


 一方の颯真はというと、朝からサッカー部や他の運動部の仲間たちと楽しそうに話し込んでいた。


 体育会系のノリというか、あの快活な雰囲気には独特の連帯感がある。人付き合いが得意な颯真らしく、もうすっかり新しい環境に馴染んでいるようだった。


 そして――朝霧さん。


 転校してきた当初は少し緊張していたが、最近は陽菜に誘われて女子グループの中でも自然に笑っている姿をよく見かける。


 おっとりした口調のまま、ふとしたタイミングで冗談を返したりして、少しずつ距離を詰めているようだった。


 その穏やかな笑顔を見かけるたびに、なんとなく安心する。もう“転校生”という雰囲気はすっかり薄れていた。


(……みんな、それぞれ前に進んでるな)


 そんなことを思った瞬間、教室の喧騒が少しだけ遠く感じた。どこか、自分だけが取り残されているような感覚が胸をかすめる。


 けれど、それもほんの一瞬のことだった。


「悠斗ー!」


 前方から呼ばれて顔を上げると、陽菜が友達と談笑しながらこちらに手を振っていた。


 その笑顔に思わず口元がゆるむ。俺も軽く手を上げて応えた。


 ――いつもと変わらない、けれどどこか心が和む瞬間。


 机の上には、学級委員のノートが広がっている。この春、流れで学級委員長を任されることになった。


 最初は自信がなかったが、どうせやるならちゃんとやろう――そう思ううちに、少しずつ周りとも話すようになっていった。


 プリントを配るときに声をかけてくれる子。掃除当番のことで相談してくる子。


 そんな小さなやり取りが積み重なって、いつの間にか俺にも“居場所”ができてきた気がする。


(受け身だった去年とは、やっぱり違うな)


 独りで過ごす時間も嫌いじゃない。


 けれど――こうして誰かと笑い合える日常も、案外悪くない。


 窓の外から吹き込む春の風が、ノートの端を軽くめくる。

 

 その音を聞きながら、俺は静かにペンを走らせた。


 * * *


 放課後。


 部活の掛け声が響く校舎をあとにし、ジムで軽く筋トレをしてから帰宅した。


 家に着いたのは夕方六時すぎ。制服を脱ぎ、部屋着に着替えてパソコンの電源を入れる。


 ふと机に肘をつき、手元のスマホをなんとなくいじっていると――。


 RINEの通知が立て続けに鳴った。


 夢中探し部のグループチャット。


 画面を開くと、案の定、陽菜が勢いよく先陣を切っていた。


 陽菜:で、GWどこ行く!?

 颯真:気が早ぇな。

 陽菜:だって楽しみで!

 乃亜:乃亜はちょっと遠出したいかなあ。


 その流れを見て、俺は考えていた行き先を打ち込む。


 悠斗:長野市とかどうかな? 電車で四十分くらいだし。朝霧さん、たぶん行ったことないよね?

 澄玲:はい、まだ行ったことないです!

 悠斗:軽井沢も考えたんだけど、GWは人が多そうで……


 送った瞬間、チャット欄が活気づいた。みんなのテンションが一気に上がったのがわかる。


 陽菜:いいじゃん! 善光寺とかもあるし!

 乃亜:乃亜も混んでない方がいいなー。長野市で賛成!

 颯真:なら昼は蕎麦だな。

 陽菜:ね! あとスイーツの店行きたい!

 乃亜:それ! 絶対行こ!

 澄玲:どんなお店があるんですか?

 陽菜:いっぱいあるよ! プリンとかリンゴパイとか……!

 颯真:……お前、食べる気しかないだろ。

 陽菜:当たり前でしょ! 旅の楽しみ=食だよ! 颯ちゃんだって蕎麦食べようとしてるじゃん!

 颯真:ぐっ、何も言えん!


 テンポよく流れる文字列が、まるで声になって頭の中で聞こえてくる。

 

 スクロールするたびに、笑い声まで混ざってくるようで――自分の部屋なのに少し賑やかに感じた。


 悠斗:じゃあ行き先は長野市でいいか?

 陽菜:さんせーい!

 颯真:異論なし。

 澄玲:私も、ちょっと調べてみますね。

 乃亜:乃亜も! スイーツ担当で!


 あっという間に話題は「誰が何を調べるか」に変わり、チャットはさらに盛り上がった。


 そして、自然な流れでGW初日に行こう、ということでまとまった。


 まだ通知は止まらない。


 陽菜:おそろいのお守りとか買おっか!

 颯真:それ、つけてくのか?

 乃亜:最近は可愛いのもあるんだよ! お兄ちゃんと颯真くんも買ってね!

 澄玲:みんなで持ってたらきっと楽しいですよね。

 陽菜:決まりー!


 次々に流れるスタンプや返信が、夜の静けさを少し遠ざけてくれる。

 

 やがて夕飯時になり、みんなが順に「またね」とメッセージを残して抜けていった。


 画面が静かになった途端、時計の秒針の音がやけに大きく響く。


(……GW、早く来ないかな)


 小さく息を吐き、手の中のスマホを見つめる。そこには「夢中探し部」の文字。

 

 まるでその名前の通り、みんなと一緒に“夢中になれる何か”を探している気がした。


 去年はただ暇を持て余していた連休。

 

 けれど今は――少しだけ、待ち遠しいと思えた。

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