第22話「出会いは偶然に①」
みんなでゲームをした翌日の休み時間。
教室のざわめきの中、俺の席の前に陽菜と颯真がやってきた。自然と昨日の話題に花が咲く。
「昨日は楽しかったな」
颯真が机に肘をつきながら、穏やかに笑う。
「いや〜澄玲ちゃん、めっちゃ上手かったよね!」
陽菜が前のめりになり、手をぱたぱたと振って大げさに褒めた。
「ほんとそれ。周りよく見てて、助かった」
俺も思わず同意してうなずく。あの連携は、今思い出しても見事だった。
「い、いえ……皆さんがフォローしてくれたからです」
隣の席の朝霧さんは、少し俯きながら控えめに答えた。しかしその頬は、ほんのり赤く染まっている。
「でもさ〜」
陽菜がにやっと笑い、机に身を乗り出してくる。
「最後の“相性がいい”ってやつだけ、ちょっと気になったかな〜?」
「なっ……!」
朝霧さんが一瞬で固まり、慌てて手をぶんぶんと振る。
「そ、それは! 昨日も言いましたけど、プレイスタイルの話です! 立ち回り的に、です!」
「あはは、冗談だよ〜。でも動揺してる澄玲ちゃん、可愛い~」
陽菜が楽しそうに笑うと、颯真が苦笑を漏らした。
「まあ、あれだけ息が合ってたら、そう言いたくもなるだろ。朝霧さん、陽菜が悪かったな」
「もう……」
朝霧さんは小さくため息をつきつつも、口元に柔らかな笑みを浮かべた。
その照れたような表情に、俺の方までなんだか気恥ずかしくなり、思わず目を逸らしてしまう。
「ごめんごめん。でも澄玲ちゃんと少し仲良くなれた気がして、うれしかったんだよ」
陽菜が軽く頭を下げながら言う。この素直さが、陽菜がみんなから好かれる理由だろう。
「……私も楽しかったです。あまりリアルの友達とゲームってしたことなかったので。また是非、やりたいです」
「だな」
「ああ」
俺と颯真が同時に頷く。
教室には穏やかな笑いが広がり、昨日の夜のあの温かい空気が、もう一度蘇った気がした。
* * *
会話がひと区切りついたころ、陽菜がふと思い出したように顔を上げた。
「そういえばさ、今日、部活ミーティングだけだから早く終わるんだよね」
「へえ、そうなんだ」
俺が相づちを打つと、陽菜は机に両手をつき、身を乗り出してくる。
「せっかくだし、放課後どこか行かない? 澄玲ちゃんの街案内パート2ってことで! 前に回れなかったところ、まだまだあるし」
その言葉に、俺達は思わず顔を見合わせた。
「悪い。俺は部活あるから無理だわ」
颯真が苦笑しながら手を上げる。
「まあ、颯ちゃんは仕方ないよね。また休日にでも遊ぼ!」
陽菜があっけらかんと笑い、颯真は「ああ」と肩をすくめた。
陽菜はくるりとこちらを向き、目を輝かせて言う。
「悠斗と澄玲ちゃんは?」
「俺は特に予定もないし、いいよ」
俺が答えると、隣の朝霧さんも控えめに微笑んだ。
「私も大丈夫です。是非行きましょう!」
その返事に、陽菜はぱっと手を叩き、満足げに頷く。
「よし、決まり! じゃあ場所は……悠斗、考えといて!」
いつものように丸投げされて、俺は思わず苦笑した。
「はいはい、了解」
すると、朝霧さんが小さく吹き出す。
「ふふ、陽菜ちゃんと佐原君って、本当に仲がいいですよね」
「まあ、そこはほら。長年連れ添ってるから」
陽菜が胸を張って得意げに言うと、すかさず颯真がツッコミを入れる。
「おいおい、いつの間に夫婦になったんだよ」
その軽口に笑いが起こり、空気がふわりと和んだ。
俺は苦笑しながらも、心の片隅で――放課後、どこへ行こうかと自然に思いを巡らせ始めていた。
* * *
放課後のチャイムが鳴り終わると同時に、陽菜が鞄を肩にかけてこちらに振り向く。
「ちょっとミーティング行ってくるね! たぶん三十分もかからないと思うから、少しだけ待ってて!」
両手を合わせ、少し申し訳なさそうに笑う。そのまま軽やかに手を振って部室へ駆けていった。
教室内にはまだ数人の生徒が残っていたが、徐々に人が減り、いつの間にか俺と朝霧さんの二人きりになっていた。
静けさが降りる。
窓の外から聞こえる運動部の掛け声が、放課後らしい空気を運んでくる。気まずさを紛らわすように、自然と口が開いた。
「朝霧さん、イカトゥーンけっこうやり込んでる?」
軽い調子で尋ねると、彼女は口元に手を当てて、少し考え込む。
「うーん……ほどほどですかね。ああいう協力プレイのゲーム、好きなんです」
「なるほど。フォローが的確で助かった。あのタイミング、完璧だった」
「いえ、佐原君が冷静だったからですよ。焦らないタイプなんですね」
「いや、内心めっちゃ焦ってたよ。でも声に出すと全員パニックになるから、なるべく落ち着いてるように見せてただけ」
笑いながら言うと、朝霧さんが目を丸くする。
「わっ……なんか、かっこいいですね」
「そ、そう? 一応、ゲームは得意なつもりだから」
照れ隠しに肩をすくめると、彼女が小さく笑った。
「確かに、佐原君のプレイはすごく上手でした。エイムも正確だし、状況判断も早くて。私も安心してプレイできました」
「……ありがとう。そう言われるとちょっと照れるな」
「ふふ、でも本当ですよ?」
そんな調子で話題は自然と広がっていく。好きなゲーム、苦手なジャンル、昔ハマった作品――。
気づけば、会話のテンポが心地よく噛み合っていた。
話がひと段落しても、沈黙は不思議と気まずくなかった。
(……出会って数週間で、ここまで自然に話せる女子って珍しいと思ってたけど、趣味が似てたからか)
夕陽が差し込み、オレンジの光が机と彼女の横顔を淡く包んでいる。
その穏やかな光景を見ながら、俺はふとそんなことを考えていた。
しばらくして教室のドアが勢いよく開く。
「お待たせー!」
陽菜が元気いっぱいの声とともに戻ってきた。
静かだった空気が一瞬で弾けるように明るくなる。
「さ、行こっか! 待ちきれなかったよー」
陽菜に促され、俺たちは自然と立ち上がった。
* * *
げた箱を出て並んで歩いていると、陽菜がこちらを見上げて尋ねてきた。
「で、どこ行く?」
一応、いくつか候補は考えていたが、無難なところから提案してみる。
「近くのショッピングモール散策はどうだ? 朝霧さん、行ったことある?」
「ショッピングモール……まだ行ったことないですね」
朝霧さんが少し考えてから答えると、陽菜はぱっと顔を明るくした。
「ちょうどいいじゃん! せっかくだし行こうよ」
「あそこ、なんでも揃ってるし、とりあえず行っとけば困らない」
「広すぎて歩き回ると疲れるけどね」
「それは楽しみです」
自然と笑みがこぼれる。行き先が決まり、そんな会話を交わしながら三人で並んで歩き出した。




