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RE:スタート・ブルー ―止まった僕の青春が、君と出会って動き出した―  作者: 宵宮ミレ


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第21話「ナイスコンビ!?」

 土曜日の午後。今日は特に予定もなく、午前中にジムに行ったあとは課題と自習で時間をつぶしていた。

 

 一段落してベッドに寝転がったとき、ふと先週の花見の日の会話が頭をよぎる。


(そういえば――イカトゥーンやろうって話、出てたな)


 別に急ぐものでもない。だがあまり放置していると、どうせ陽菜がうるさく言ってくるだろう。

 

 スマホを取り出し、夢中探し部のグループチャットを開く。軽く息を吐いてからメッセージを打ち込んだ。


 悠斗:明日の夜、イカトゥーンやるか?


 すぐに既読が並び、陽菜から元気なスタンプとメッセージが飛んでくる。


 陽菜:お、忘れてなかったか。いいねー! もちろん空いてるよ!

 颯真:俺もできる。


 数秒置いて、朝霧さんからも返事が届いた。


 澄玲:私も予定ありません、大丈夫です。


 画面に三人の返事が並ぶ。みんなレスポンスが早い。少し笑いながら、もう一度入力する。


 悠斗:じゃあ明日21時開始でよろしく。


 そう送信してスマホを置いた。リアルの友達とゲームで遊ぶのも久しぶりだ。


 陽菜は猪突猛進タイプで、勝っても負けても楽しむプレイスタイル。


 颯真は冷静に立ち回るが、そもそもゲーム自体はあまりやらないから腕はそこそこ。


(朝霧さんはどれくらいの腕前なんだろうな)


 そんなことを思いつつ、机に戻って自習を再開した。


 * * *


 夜になり、パソコンを起動していつものようにMistとのボイスチャットにつなぐ。

 

 ゲームが立ち上がるまでの間、ふと昼間のやり取りを思い出し声をかけた。


『あ、そうだMist。明日の夜はリアフレとゲームするから、夜はパスで』


『……オッケー、了解』


 短い返事。わずかに間があった気がしたが、すぐに普段通りの調子に戻る。


『まあ、リアル優先でいいよ。楽しんでこい』


『悪いな。次はまた一緒にやろう』


『おう』


 軽いやり取りのあと、画面の向こうへ意識を切り替える。

 

 そして、Mistとのゲームの世界に没頭していった。


 * * *

 

 日曜の夜、時計の針が二十一時を回った頃。

 

 パソコンの前でボイスチャットに接続すると、次々にアイコンが点灯していく。


『おつー!』


 陽菜の弾んだ声が、真っ先に耳に飛び込んできた。


『よっす、時間ぴったりだな』


 颯真の落ち着いたトーンが続く。


『……こんばんは』


 朝霧さんは少し間を置き、控えめにあいさつした。


『よし、全員そろったな』


 俺もマイクをオンにして応じる。


『イカトゥーンやるの久しぶり! 楽しみ! 澄玲ちゃんは何使うの?』


 陽菜が元気いっぱいに問いかける。


『私は……いろいろ使いますね。あ、でも遠距離武器は苦手かもです』


『あれ難しいよね! 私は下手だから近づいてローラーで轢く!』


『その前にいつも撃たれてやられてるけどな』


 俺が軽く突っ込むと、陽菜がすぐ反論する。


『仕方ないでしょ!』


『まあ、陽菜を囮にしてこっちは敵を倒せるから』


 颯真のさらりとした言葉に、陽菜が声を上げた。


『囮扱いはひどいよ!?』


 やいのやいのと盛り上がるやり取りに、思わず笑いが漏れる。

 

 くだらない会話で笑い合ったあと、颯真の「そろそろ始めようか」の一言で全員が準備を整えた。


 チームを組んでマッチング完了。画面が切り替わると、色鮮やかなステージに自分たちのキャラが並ぶ。


『行くぞー!』


 陽菜の声を合図に、インクを撒き散らしながら全員が前線へ駆け出した。


 真っ先に飛び出したのは、やっぱり陽菜だ。


『わーっ! 突撃ー!』


 勢いそのまま敵陣へ――


『うわっ、やられたー!』


 数秒でリスポーン地点に戻る羽目になった。


『流石に早すぎだろ。突っ込みすぎなんだよ』


 俺が苦笑すると、颯真が淡々と重ねる。


『反応遅れて、囮にもならなかったな』


『えへへ、待ちきれなかった!』


『すみません、陽菜ちゃんフォロー間に合いませんでした』


 朝霧さんが穏やかに謝ると、陽菜がすかさず声を張り上げた。


『澄玲ちゃん優しい! 悠斗も颯ちゃんも見習ってもっと私に優しくしなさい!』


『はいはい』


『はいは、一回!』


 不満げな陽菜の声に、思わず笑いが漏れた。


 なんてやり取りをしつつも、試合は進むにつれて落ち着きを取り戻していく。


 颯真は慎重な立ち回りを崩さず、後方で牽制。火力は控えめだが堅実だ。


 俺は安定した射撃で前線を支え、敵の動きを読んで仕留めていく。


 そして、隣を駆けるのは朝霧さん。想像していた以上に上手かった。


 普段のおしとやかな動きとは裏腹に、無駄のない動きで慣れた手つきだ。味方の位置を意識しているのか、カバーが驚くほど正確だった。


『朝霧さん、今のナイスカバー! かなり上手いな』


 思わず声を上げると、落ち着いた返答が返ってくる。


『い、いえ、佐原君が前に出てくれてたので。自然と動けただけです』


 チャット越しに交わされる言葉が、妙に心地よい。

 

 それぞれの個性が入り混じり、わちゃわちゃと声を掛け合いながら進むゲーム。


 バラバラなようでいて、確かに「チーム」として戦っている。

 

 その空気に胸が温かくなり、思わず口元が緩んだ。


 * * *

 

 試合は中盤に差しかかっていた。インクで塗られたフィールドを駆け抜けながら、俺は必死に前線を維持していた。


 だがそのタイミングで、颯真と陽菜が同時にやられてしまう。


『ぎゃー!』


『すまん、やられた』


『了解! すぐ戻ってきてくれ!』


 声を飛ばしつつも、二人が落ちた穴は大きい。敵は勝機を逃さず一気に前に出てきた。俺もなんとか下がりながら応戦するが、数的不利で押されていく。


(今、ここで横から抜けてフォローしてくれれば……!)


 Mistなら、言わなくてもそう動いてくれる。そんな考えが頭をよぎった瞬間――


『レ……佐原君、フォロー、します!』


 朝霧さんの澄んだ声がヘッドホン越しに響いた。


 次の瞬間、横からインクの弾幕が飛び込み、敵の進路を阻む。俺の正面が一気に開け、迷わず撃ち抜く。振り向けば、朝霧さんも残った敵を冷静に仕留めていた。


 驚くほど息の合った連携。自然すぎて、一瞬前までの苦戦が嘘のようだった。


『ナイス! 完璧すぎ!』


 思わず声が弾んだ。


『えっ、ちょっと! 二人だけレベル違いすぎじゃない? 私たちいなくても勝てちゃうじゃん!』


 陽菜が不満混じりに突っ込む。


『確かに。悠斗が上手いのは知ってたが、朝霧さんもやるな。まるでずっと組んでたみたいなコンビネーションだった』


 颯真も感心したように言う。


『そ、そうですか? たまたまですよ』


 朝霧さんは落ち着いた声で受け流した。その声色がかすかに揺れたように聞こえたのは、きっと照れているからだろう。


 * * *


 終盤に入ると、陽菜と颯真も調子が出始めたのか、少しずつ持ち味を発揮し始めた。


『一人倒したよ!』


『こっちもやった!』


『ナイス!』


 そんな声が飛び交い、前線がじりじりと押し上がっていく。


 俺と朝霧さんは二人の背中を守りつつ、隙を突いて敵を倒す。互いに言葉を交わさなくても、動きが噛み合っていた。まるで暗黙の了解で支え合っているように。


 最後は敵陣を一気に塗りつぶし、そのまま勝利の文字が画面に踊った。


『勝ったー! やった!』


 陽菜が歓声を上げ、颯真も「まあ、陽菜の囮が効いたな」とからかう。


『いや、囮っていうか……ただのデスだろ』


 俺がツッコミを入れると、


『うう……何も言えない。で、でも終盤は頑張ったよ……?』


 陽菜が情けない声を漏らす。


 そんなやり取りに笑いが広がりつつも、そのまま次の試合へ。


 その後も何戦か重ねていく。陽菜が突撃しては派手にやられ、颯真が冷静にコメントを入れる。


 そのたびに俺と朝霧さんが前線を維持し、勝ちをもぎ取った。もちろん負けることもあったが、それすらも楽しいと思える時間だった。


 * * *


 夢中になっていて気づかなかったが、いつの間にか時計の針は日付が変わる直前になっていた。

 

『そろそろ終わるか。時間も時間だし』


 俺がそう提案し、皆が同意した。


『今日は結構勝てたね!』


 陽菜の明るい声が、ひと息ついたように響く。


『確かに。というより悠斗と朝霧さんが上手かった』


 颯真が落ち着いた口調でまとめた。


『いや、俺だけだったら無理だったよ。朝霧さんがこっちの意図を汲んでくれて、すごく助かった。……結構やりこんでる?』


 素直な感想を口にすると、すぐに二人が被せるように同意する。


『それめっちゃ思った! なんか私たちいらなかったんじゃ?ってくらい!』


『ああ。かなり良いコンビに見えたな』


 そこで、マイクの向こうから小さな沈黙。ほんのわずかな間を置いて、朝霧さんの声が返ってきた。


『……えっと……そ、そう! きっと佐原君との相性が良いんです!』


 一瞬でボイスチャットの空気が止まる。


『え、いま“相性が良い”って言った? ど、どういう意味?』


 真っ先に突っ込んだのは陽菜だった。


『い、いえ! えっと……立ち回りの話です! ゲームのプレイスタイル的に、っていう意味で!』


『ははっ、なんだか逆に怪しいな』


 颯真が面白がって茶化す。


『ち、違うんですから!』


 慌てふためく声がヘッドホン越しに響き、場の空気が一気に明るくなる。


『ふーん……? なるほどねえ』


 陽菜がからかうように含み笑いを漏らした。


 俺はといえば、どう返せばいいのか分からず、苦笑いを浮かべながらモニターを見つめるしかなかった。


 そんな微妙な余韻を残しつつも、楽しかった夢中探し部のゲーム回は幕を閉じるのだった。

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