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RE:スタート・ブルー ―止まった僕の青春が、君と出会って動き出した―  作者: 宵宮ミレ


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第14話「買い物デート……みたいなもの?」

 休み時間になり、教室は一気にざわめきに包まれた。机を引き寄せる音や、友達同士の笑い声が重なり合い、活気があふれている。


 そんな中、いつものように俺の席までやってきた陽菜が、弾む声で尋ねてきた。


「ねえ、お花見するならさ、買っといたほうがいいものとかあるかな?」


 お花見はもう翌日に迫っている。陽菜の顔には、楽しみで仕方ないという気持ちがそのまま浮かんでいた。


「んー……シートとか紙皿とか、一応買っとくのもありだな。まあ、当日なんとかなるかもしれないけど」


 俺が答えると、陽菜はぱっと顔を明るくし、軽く手を打った。


「だよね! じゃあ今日の放課後に買いに行かない? 澄玲ちゃんはどう?」


 隣に座っていた朝霧さんが、小さく手を上げる。


「すみません。今日は用事があって……」


 控えめな声でそう断った。


「りょ! じゃあ澄玲ちゃんはナシで。颯ちゃんは部活だし……今日は二人で行きますか」


 陽菜があっけらかんとした調子で俺を見た。


「ああ、そうするか。別にそんなに人手がいるわけでもないしな」


 特に気負う理由もなく、自然に頷く。


「ありがとうございます。明日、楽しみにしていますね」


 朝霧さんがにこやかに微笑む。その表情は柔らかく、期待がにじんでいるように見えた。


「任せといてー!」


 陽菜が胸を軽く叩き、いつもの調子で宣言する。教室の喧騒の中、その明るい声がひときわ響いた。


 * * *


 約束通り、放課後に陽菜と二人でスーパーへ買い出しに向かう。


「えっと……とりあえず、シートと紙皿と割りばし、だよね」


 入口でカゴを手にしながら、陽菜が指を折って確認する。


「ああ、とりあえずそれくらい買っとけばいいだろう。飲み物はかさばるし、当日でいいな」


「了解!」


 軽快に返事をすると、陽菜は売り場を歩きながら必要なものをカゴに入れていく。


「よし、これで揃ったな」


 そう言った俺に、陽菜は人差し指を振って首を横に振った。


「チッチッ、まだ大事なのを忘れてますよ、お兄さん」


「誰がお兄さんだ」


 呆れた声を出した瞬間、陽菜は迷わず食材コーナーへ直進した。


「おい、どこ行くんだよ」


「花見といえばお菓子でしょ! はい、ポテチにチョコに……」


 袋菓子が次々とカゴに放り込まれる。


「それから、お団子も絶対必要!」


 小さなパックを掲げて得意げに笑う陽菜に、思わずため息が出た。


「……別に屋台で買えばいいんじゃないか?」


「こっちのが安いじゃん! 節約、大事でしょ?」


 どや顔で返され、言葉に詰まる。普段はふざけてばかりなのに、こういうときだけ妙に正論を突きつけてくる。


 結局、次々放り込んだ菓子で重くなったカゴを、俺が抱える羽目になった。


 意気揚々と先を歩く陽菜の後ろ姿を追いながら、ふと視線を感じる。すれ違う人たちがちらりとこちらを見ていく。


 制服姿の男女が夕方のスーパーで買い物をしていれば、買い物デートに見えるかもしれない。


(いやいや、そういうんじゃないだろ……)


 平静を装いつつも、意識するほど落ち着かなくなる。カゴの取っ手を握る手に、余計な力が入っていた。


 * * *


 スーパーを出ると、空はすっかり夕暮れ色に染まっていた。商店街の通りには買い物袋を下げた人や学生が行き交い、ざわめきと呼び込みの声が重なって響く。


「袋貸せよ、重いだろ」


 声をかけて手を伸ばすと、陽菜は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに照れくさそうに袋を差し出した。


「……ありがと」


 普段よりも少し小さな声。その響きに気恥ずかしさが混じっている気がして、俺は袋を受け取り片手に持ち直す。自然と二人の歩幅がそろい、商店街を並んで歩き出した。


 夕焼けに照らされた道を進むうち、陽菜がぽつりと口を開く。


「悠斗と二人きりで何かするのって、なんか久しぶりじゃない?」


「……確かに」


 思い返せば、大抵俺と陽菜の隣には颯真がいた。小学生の頃からの幼馴染三人組。常に一緒ではなかったが、気づけば自然と揃っていることが多かった。


 颯真は誰とでも打ち解けられるし、陽菜も明るくて男女問わず友達が多い。二人とも部活に打ち込み、いつも賑やかな輪の中心にいた。


 一方で俺は人付き合いが得意ではなかった。会話くらいはできても深く踏み込むのが苦手で、サッカー部をやめてからはその傾向がさらに強まった。


 そんな俺にも、二人は昔から変わらず接してくれている。そのことには感謝しているが、なかなか口には出せない。


 高校に入り、颯真に彼女ができてからは自然と三人で集まる機会も減った。登校は相変わらず一緒だが、遊びに行くことは少なくなった。


 だから、こうして陽菜と二人きりでどこかへ行くのは本当に久しぶりだ。


 商店街は人通りが多く、惣菜の香りや看板の光が目と耳をにぎやかに奪っていく。その中で、陽菜は楽しげにあれこれと話題を振り、俺は相槌を打ちながら聞き役に回った。


「小学生の頃さ、三人でよく遊んだよね」


 懐かしそうに笑う陽菜の横顔に、俺も思い出す。公園で駆け回ったこと、くだらないことで喧嘩してすぐに仲直りしたこと。語り出せばきりがない。


 そんな中ふと、陽菜の髪に小さなゴミが付いているのに気づいた。きっと風で飛ばされてきたのだろう。


「陽菜」


「なーに?」


「こっち向け」


 彼女が不思議そうに首を傾げる。俺は手を伸ばして髪に付いたゴミをつまみ取り、指先で軽く払った。


「ゴミついてたぞ」


 そう告げると、陽菜は一瞬目を丸くし、すぐに頬を赤らめる。


「やっぱり悠斗って、あの頃から変わらないよね」


「いや、成長しただろ。身長も、中身も」


 大げさに返すと、陽菜は口元に笑みを浮かべ、どこか含みのある調子で言った。


「まあ、今の悠斗には分からないかもねー?」


 からかうようでいて、妙に引っかかる言い方だった。俺は返す言葉を探しかけ、結局飲み込む。


 夕暮れの雑踏の中、無言のまま陽菜の歩幅に合わせた。


 * * *


 夕暮れの商店街を抜け、学校近くまで戻ってくる頃には、空はすっかり夜の色に変わっていた。住宅街の街灯がぽつぽつと灯り始め、道を行く人々を柔らかく照らしている。


 俺の家の前まで来ると、自然に足が止まった。


「じゃあ、ここで解散かな」


 袋を持ち直しながら言うと、陽菜がぱっと笑顔を向けてきた。


「うん、おつかれさま!」


「ああ、おつかれ。買ったものは、明日俺が持っていくよ」


 そう言うと、陽菜は素直に頷いた。


「ありがと! 明日、楽しみだね!」


「ああ」


 短い返事。それでも自分の声に、わずかな期待が混じっているのを感じる。


 陽菜は一瞬だけ言葉を選ぶように視線を泳がせ、それから小さく息を吐いて口を開いた。


「あ、でも……今日も楽しかったよ」


 えへへ、と笑いながら。普段の明るさに混じるように、どこかはにかんだ響きがあった。


 どう返していいか分からず、俺は「……おう」と曖昧に頷く。


「じゃ!」


 それだけ残して、陽菜は踵を返して駆けていった。背中が街灯の下で小さく揺れ、やがて角を曲がって見えなくなる。


(……なんか、最近調子狂うな)


 そんなことを心の中でつぶやき、袋を持ち直して家の玄関へと足を向けた。

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