第13話「夢中探し部、拡大中?」
翌朝。教室に入ると、朝霧さんはすでに席についていた。
「お、おはようございます……」
少し硬い声色で、彼女がこちらに向かって頭を下げる。その仕草がどこかぎこちなく見えて、思わず足を止めた。
「……何かあった?」
つい問いかけると、朝霧さんは一瞬だけ視線を伏せ、小さく首を横に振った。
「いえ、何もありません」
それ以上は深く聞かず、まあいいかと納得する。
そういう日もあるだろう。俺はそのまま席につき、午前中の授業は特に変わったこともなく過ぎていった。
* * *
昼休みのチャイムが鳴り響く。
「食堂いこ!」
陽菜が元気よく声を上げる。俺と朝霧さんも立ち上がり、三人で廊下へ出た。
最近はこの三人で昼食を取るのが、自然と習慣になりつつある。
「おーい、今日食堂? 俺も行くわ」
ちょうどタイミングを合わせるように、颯真が軽い調子で合流してきた。
「いいのか? 彼女と一緒じゃなくて」
俺がからかうように言うと、颯真は肩をすくめて笑う。
「今日は友達と食べるってさ。だから混ぜてくれよ」
「じゃあ四人で行こっか!」
陽菜が嬉しそうに言うと、朝霧さんも小さく頷いて歩をそろえる。
自然に並んだ四人の列が、昼休みのざわめきに溶け込んでいく。
廊下は生徒たちの談笑や足音で賑わっていた。制服姿の流れに混じりながら、俺たちは食堂へと歩を進めた。
* * *
食堂のざわめきの中、四人掛けの席を見つけて腰を下ろした。トレイを並べると自然に輪ができ、昼食が始まる。
——けれど、周囲から向けられる視線に気づいてしまう。
ちらちらと横目が流れてきて、ひそひそ声が耳の端をかすめた。
(まあ……仕方ないよな)
颯真はサッカー部の中心で、イケメンと評判。上級生にまで顔が知られている。
朝霧さんは転校してきたばかりなのに、見とれるほど整った美貌で注目の的だ。
陽菜も明るくて華やかで、贔屓目抜きでも十分可愛い。
そんな三人と並んで座っているのが俺——どう考えても場違い感がある。
正直、居心地の悪さが胃にじわじわとのしかかってきた。
「なんか……視線、感じないか?」
ぼそっと漏らすと、向かいの朝霧さんが首を傾げる。
「確かに……颯真さんが目立つから、でしょうか」
自分も視線を集めている当人なのに、そんな自覚はなさそうだ。
横で陽菜が箸を止め、あっけらかんと笑った。
「気にしすぎ! 私たち、いつものメンバーで食べてるだけでしょ」
「まあ、こんなもんだな」
颯真は肩をすくめ、さらりと受け流す。俺もつられて苦笑しながら箸を動かした。
(……やっぱりこいつらは慣れてるんだな)
そんな取り残されたような感覚を抱きつつ、口に運んだ味噌汁はいつもより少し塩気を感じた。
* * *
箸を進めていた陽菜が、ふと思い出したように声を弾ませた。
「そういえばさ、“夢中探し部”、颯ちゃんもどう?」
元気いっぱいに隣で言われ、思わず箸が止まる。
「……名前はどうかと思うけどな」
ぼそっと突っ込むと、向かいの朝霧さんが小さく肩をすくめた。
そういえば、元の命名者は朝霧さんだ。
「そ、そうでしょうか……」
視線を落とし、少ししゅんとする。その姿に一瞬気まずさを覚える。
「あー、悠斗。澄玲ちゃんいじめたー! 文句あるの?」
陽菜が目を細めて詰め寄る。
「い、いや……特にナイデス」
慌てて両手を振ると、朝霧さんが小さく笑い声を漏らした。
「ああ、なんか前に言ってたやつか」
颯真がラーメンをすすり、口元を拭いながら顔を上げる。
「そうそう! みんなで楽しいことやる感じのやつ!」
陽菜が勢いよく説明を重ねる。
「……やっぱり説明がぼんやりしてるな」
颯真が苦笑し、俺も肩をすくめた。
「まあ要は、暇なときに集まって遊ぼうぜって話だな」
フォローすると、颯真はにやりと笑う。
「そういうことなら、もちろん大歓迎だ」
はっきりとした口調に、自然とこちらの口元も緩む。
笑い声に包まれて、食堂のざわめきが少し遠のいた気がした。
* * *
「で、次の活動は決まってるのか?」
颯真が尋ねると、陽菜が間髪入れずに答える。
「ノープランです!」
「自信満々に言うことじゃないだろ……」
思わず俺が突っ込む。
とはいえ、次にやることか。四月といえば真っ先に浮かぶのは——。
「そういえばさ、桜がそろそろ見頃なんじゃないか?」
ふと思いついて提案すると、朝霧さんが驚いたように瞬きをした。
「そうなんですか? 東京のほうは、もう散ってしまっていると思います」
「こっちはこれからが本番だな」
「やっぱりこちらの方が寒いので、時期が違うんですね。面白いです」
興味深そうに小さく頷く朝霧さん。そういう素直な反応に、思わずこちらも頬が緩む。
その流れのまま、陽菜がぱっと顔を上げた。
「じゃあさ、みんなで花見しようよ!」
「いいですね」
「いいな」
朝霧さんと颯真がすぐに賛同する。
「いいけど……どうせ花より団子になるんだろ」
軽口を叩くと、
「当たり前じゃん!」
陽菜が即座に笑い転げ、颯真も「まあ、お花見のメインだろ」と肩を揺らして笑った。
朝霧さんは頬をわずかに染めて、柔らかい笑みを浮かべる。
全員が乗り気になったところで、自然と日程の話へ移った。
「今週の土曜日とか、どうかな? 私は空いてるんだけど。あ、悠斗はいつも暇だから大丈夫だよね?」
陽菜が箸を置き、当然のように確認してくる。
「……ああ、土曜日は空いてる」
反論したかったが、事実なので言い返せない。俺の様子に、陽菜と朝霧さんが顔を見合わせて笑った。
「俺もちょうど土曜は部活が無いからいけるぞ」
颯真が続ける。
「私も大丈夫です。みなさんと一緒に行くお花見……楽しそうです」
朝霧さんの声は控えめながら、期待がにじんでいた。
(人混みは苦手だが、まあ……このメンバーでなら悪くないか)
颯真と陽菜は言うまでもなく、朝霧さんもすでに自然に溶け込んでいる。出会って数日でこうなるのは、俺にしては珍しいことだった。
「よし、決まりだね! 次の夢中探し部の予定は今週土曜日、お花見!」
陽菜が力強く宣言し、全員がうなずく。
「あ、颯ちゃんもRINEのグループに入れとくね」
「おっけ。よろしく」
にぎやかな昼休み。こうして過ごすのも、案外悪くない。
そんなことを思いながら、俺は最後の一口をすすった。




