2. 囚われた宇宙人
売り場が広いので、お昼休憩に行くにも業務用エレベーターで他の階へ移動をする。
やってきたエレベーターに乗り込むとよく見かける光景がある。
万引きGメンと共に、捕まった万引き犯が乗っているのだ。
万引き犯は、目をまん丸くしてわくわくした顔つきの落ち着きのない人もたまにいるが、大概はみんな肩を落として斜め下に俯き、不服そうな何とも申し訳なさそうな顔をしている。
また、万引きGメンの背が高いせいか、いつも1950年代アメリカで発見されたという『囚われた宇宙人』を思い出す。
この万引きGメンもエレベーターで見かけるといつも会釈をしてくれ、あぁGメンの子だな、また捕まえたんだなと思うのだが、売り場で見かけた事はないのだ。
いや、見かけた事がないと言うときっと嘘になる。
Gメンなだけに、売り場で見かけていたとしてもきっと目立たず、記憶に残らないのだろうと思う。
彼は、どこにでも居そうな人当たりのよい青年で、スポーツ万能そうな細身の体型だ。決してマッチョではない。
犯行を見つけては、気配を消して、捕まえるのだから流石だ!
ここで出てくるゆかいなお客様達は、後光が差しているんじゃないかと思うほど、売り場でも大変目立ち異彩を放っている人ばかりなのだから。
普通のお客様は、景色に溶け込んでしまいほとんど心に残らないものだ。
FIFAワールドカップが日本で開催され、侍JAPANが決勝トーナメントに進み、大盛り上がりだった年。
大会も終わり1ヶ月程だろうか。
世の中も落ち着いてきた頃だというのに、侍JAPANのユニフォームを着た60代と思しきお婆さんがほぼ毎日現れるようになった。
まだエコバッグを持ち歩く人がいない頃だったので、買い物帰りのお客さんはお店のショッパー紙袋を持っているのだが、このお婆さんは家から持ってきた袋なのだろうか?皺々でとても年季の入ったショッパー袋をいつも肘に掛けているのだ。
買い物の終わった人が、いつまでも売り場をウロウロしているのはおかしい。
あの紙袋には何が入っているのだろうか。
それともこれから入れるところなのか。
ここまで目立つ見た目なのだから、従業員の中でも侍お婆ちゃんは密かに噂になっていた。
誰もが万引き犯ではないかと目を光らせていたのだ。
いつか捕獲され、エレベーターで出会うのではなかろうかと。
それから1ヶ月程経っただろうか。
最近、あの侍JAPANのお婆さん見かけなくなったねと話題になった時、一人の先輩が口を開く『あの人、万引きGメンだったらしいんだけど、全く捕まえられなくて辞めたらしいよー。』と!
何だそれ!そりゃ当たり前じゃないか!
あれだけ目立つ人が近くにいたら、万引き犯も何も盗らないだろう。
人目を避けて犯行に及ぶものなんだから。
付いて来られて気が付かない人はいないし、色んな意味で付いて来られても恐い…
従業員もひっくるめての、まさかのオウンゴールだ⚽️