1. オレ様
僕がまだ二十代の半ば、社会人になって4年目でインテリアの商品担当を任された頃だった。
まだまだ、若手ではあるが職場環境にも慣れ、商品知識も得て、少しずつ自信もついてきていた。
平日ののんびりと穏やかな普通の一日。
いつも通りのルーティン業務をこなしていた時だった。
売り場整理をしていると、少しだけ年上と思われる男女のお客様がこっちへ来る。
「いらっしゃいませ。」
男「分かる人呼んで!」
サングラスを掛け、黒い革ジャンを着て、セカンドバッグを小脇に抱えているプライベートでは絶対に関わることのないタイプの男性だ…
セカンドバッグと反対の腕には、異常に丈の短いピタピタのワンピースを着た巻き髪の女が絡みついている。
「はい!どのような件でしたでしょうか?」
男「いいから。上の人呼んで。」
「あ…はい。」
はい出ましたー。販売あるある。何も接客をしていないのに、『上の人を呼んで』コール。
これを口癖にする人にはろくな奴がいないのである。
僕は二十代半ばになっても童顔のせいか、若く見えるらしくお客さんからもすぐに舐められる。
はいはい。まぁ。めんどくさい人と関わらずに済んだと思えばいいかと自分に言い聞かせて、直属の上司を呼んでくる事にした。
一部始終を上司に伝え、お客様のところへ案内し立ち去ろうとすると、上司は「ちょっと待って。ここに居て。」と。
僕のお店では、お客様から自分の分からない事を聞かれた時は、その商品担当者を連れてきて、同席させてもらい商品知識を身につけるまではお客さんの後ろから離れてはいけないがルールだ。
でも、今回は僕の売り場だ。僕より詳しい人はここにはいない。話を聞かなくてもよいはずだった。
男「これがいいんだけど。在庫はある?」
なんだ。やっぱり上司を呼ぶ程の大した事じゃない。
上司「佐藤(僕の名だ)、在庫はあるか?」
「あっはい!こちらにあります。サイズはおいくつでしょうか。」
男はボソボソと呟く様にサイズを言った。僕と話をするのは不本意なんだろう。
上司「オーダーサイズになるので、お取り寄せ致します。(そして僕に向かって)佐藤、仕上がりのサイズは?納期はいつになる?」
僕はすかさず電卓で計算をし、「サイズは210cmで、こちらの商品だと納期は10日かかるので、最短で来週の水曜に店着です。」
上司は男に向かって「来週の木曜日にはお渡し出来ます。では、カウンターで伺いますのでこちらへどうぞ。」
段々と声の小さくなる男…。そして、腕に絡みついていた女もついに解けた。
カウンターに着くと、上司は
上司「佐藤!伝票を書いて」
「…はい!」
取り寄せに関する業務を一通り終えて、無事に男女のお客様を送り出す。
上司「ありがとうございました。」
続けて僕も「ありがとうございました。」と言う。
結局、終始僕が対応する事となり、来店時の威勢のよさは全くなくなり帰路に着く男女…。
はっきり言ってしまうと全く好きではないお客様だが、なんか清々しい気持ちになった。
上司「自分の売り場なんだから、あんなのにのさばらせちゃダメだよ。自信を持っていかないとね。」
そう。僕の上司も商品について何も分からなかったわけではないのだ。
敢えて、僕の顔を立てる為にしてくれた事だった。
お客様に失礼な事をした訳でもないのに、若いからと言うだけであからさまに嫌な態度を取る人に分かってもらいたくした事だった。
こんな上司の元で働ける僕は幸せもんだ!
〈販売あるある〉
このタイプのお客様は世の中にたくさんおり、皆通る道でもある。