表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/51

プロローグ

わたしの世界は、三度変わった。


いちど目は世界が変わった。


にど目は、君が。世界を変えた。


そして、さんど目は______。




雨が降っていた。

雨歌うかは自分の名前を付けてくれた母親と、

もう自由に会えなくなってしまった父親のことを思い、

泣きながら公園のベンチに座っていた。

手に持ったスケッチブック。

木陰ですずめが雨宿りしているのを描きたくて。

でも、


(もう、描けない、描いちゃいけない)


雨か、涙のせいか分からない。

画用紙の上で描きかけの葉っぱがにじんだ。


「____あなたも、わたしとおんなじね」


ふと、雨がやんで雨歌は顔をあげた。

そこにいたのは、真っ白な髪をかかとまで伸ばした、青い瞳の少女。

手には少女の体ほど大きな、一枚の羽根を持っている。

雨がやんだと思ったのは、少女が羽を、ベンチに座る雨歌の頭に、

傘代わりに掲げてくれたからだった。

雨歌が見たことのない不思議な傘を持った、不思議な少女。

でも雨歌は怖くはなかった。


「おなじって?」


雨歌が聞き返すと、少女はくしゃりと顔をゆがめた。ぽろり、と涙が少女の青い目から落ちる。


(きれい………)


飴にして食べたら美味しいだろうな、なんて思う自分がいて。でも言わないほうがいいとも知っていた。

雨歌が幼稚園で話すと、だいたいみんな笑うのだ。

じっと見つめるしかできない雨歌のまえで、少女はとうとうしゃっくりまで始めた。


「ひっく、ひっく、会えないの。だから、助けて」


ぽろぽろと。

涙がこぼれてはあふれている。


笑わせよう。雨歌は思った。

「ねえ、にらめっこしない?」

「にらめっこ?」


しゃくりあげるのをやめて少女がこちらをじっと見つめたとき、雨歌はなぜかほっとした。


「わたしから、へんなかおするね」


そういって、前はよく母が笑ってくれた変な顔をする。

幼稚園でも、家でも、笑ってほしい時この顔をすれば、なんとなく出来事が丸く収まる。

だから、困ったときはこの顔をする。


「へんなの」


くすり、と少女が笑ってくれた。さっきまで泣いていたのは自分のほうだったのに。


「____これ、あなたにあげる」


ふいに、少女の声が低くなった。

青い目が、ゆらゆらと揺れて、水たまりみたいに雨歌をうつしている。


「ねがいのたね。わたせる人。かなえる人。ぐどんなるたましい。きっと、あなたしか、いないから」


雨歌の手を取り、開かせて。ずしり、とした重みに雨歌の腕が揺らぐ。

のせてきたのは、雨歌の握りこぶしぐらいある、ごつごつした石だった。


「みずをあげて。ねがい続けて。そうしたら、あなたとわたしのねがいがかなうから」

歌うみたいな少女の低い声が、水がしみこむみたいに耳にながれこんでゆく。


「まってる。ずっと、ずっと、ずっと____

____だから、たすけて」


低い声はささやきごえに変わった。

雨歌は、なにも言えない。手の上の石をじっとみつめる。

何も言わないし、何も変わらない石。これなら描けそうだと思った。


ありがとうを言おうと、顔をあげると、少女はもういない。


雨が、やんでいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ