第6話 潜入捜査官ハルタン
――学校が始まり、俺はご主人様が心配でカバンに着けるキーホルダー代わりに小さなたぬきのマスコット人形に変体し、学校へ付いて行くことにした。
ご主人様が校門へ入った時、ご主人様へのヒソヒソ話が聞こえてきた。
「メスオークがまた来てるわよ」
「魔法も使えないオーク女の癖に」
「いつ襲われるか私、心配!」
「あの豚、あれでも公爵家のご令嬢かしら?」
出るは、出るはご主人様への侮辱的な言葉を…… この時点で俺は怒りに震えていた。
ご主人様の顔を見ると目に涙を浮かべ我慢をしていた。ご主人様が我慢しているのであれば、俺も我慢することにした。しかし、俺の怒りの防波堤は決壊ギリギリだった。
「君たち! その辺で止めて貰おうか!」
「――!? ロッシュウ王太子様。これは…… その……」
後から若い男の声がし、ご主人を侮辱した女子生徒どもは、その男を見た瞬間怯えていた。
「君たちには貴族としての品位ないのか? このような事をしている前に己を磨いたらどうだ!」
その言葉を聞き、女子生徒どもは蜘蛛の子を散らしたように逃げて行った。
「エリス。大丈夫かい? また、いじめられていたのかい? いい加減にフォンティーヌ卿に話したらどうなんだい?」
この男は俺のご主人様に馴れ馴れしく近づいて来た。 ――俺の中で敵認定。
「助けて頂き、ありがとうございます。ロッシュウ王太子殿下」
「エリス。いつも言ってるだろ。僕の事は『シュウ』と呼んでくれ!」
「しかし殿下を、そのようにお呼びするのは不敬にあたります」
「はぁ~、僕と君は小さい頃からの幼馴染みなんだよ! 僕の言うことも、たまには聞いてくれても良いんじゃないのか?」
「そういう訳には参りません」
「エリス。君の頑固さはどこから来たんだい? 昔、王宮で一緒に遊んでた時は、『シュウ様! シュウ様!』って呼んでたじゃないか? まぁ、その頑固さが、君の良い所でもあるんだが」
「昔と今では違います! 殿下には、お立場というものをお考え下さい」
ご主人様は、この男に小さい頃の話しをされて、恥ずかしかったのか耳が赤くなっていた。
「エリス。お願いだから自分の事も考えて欲しい。僕は君を心配しているんだ。いつでも一緒に居てあげたいと思うが、それは中々難しいものもある。僕がいない時、君を守ってくれる人はいないんだよ。」
「私は…… 大丈夫です。それに、あの方たちもいつかは……」
「ふぅ~、 ホントに君って…… 優しすぎるというか、お人好しというか。あぁ、わかったよ。エリスの好きなようにすればいいよ。困ったことがあれば僕に相談してくれ! ただ、僕はずっと君の味方だと言うことは忘れないでいて欲しい……」
「ロッシュウ殿下、ありがとうございます。その時は、お願いします」
「だから、『シュウ』で良いって!」
ロッシュウってヤツはご主人様の頑固さに半分諦めたような顔をして、エリスを慈しむ様に見つめていた。
「さぁ、エリス。教室に急ごう」
「ハイ」
そして、二人は教室へと向かった。
あとで、ロッシュウってヤツを調べてみたが、名前は『ロッシュウ・ルーン・アルパトス』、16歳。ティーファンド王国第三王子で皇太子だった。顔は、俺よりは落ちるが中々のイケメンだ!
兄が二人いるみたいだが、病弱だという事でほとんど表舞台には姿を見せない。
ロッシュウは、自分が皇太子になるよりも兄上たちの方が国王として相応しいと周囲に愚痴をこぼしている。あまり、国王とかには興味が無いらしい。
ご主人様とは学年が一つ上だが、小さい時からの付合いでよく遊んでいたらしい。今では遊ぶことが無くなったが、ご主人様の事を心配で、頻繁に顔を見せている。
あまり傍に寄り過ぎると周りからの嫉妬で、ご主人様の状況をさらに悪化させるのではと悩んでいる。ご主人様には『お父上であるセトリック様、マリーヌ様に早く今の状況を相談して、何らかの対策を講じた方が良い』と伝えているみたいだが、ご主人様は首を縦には振らないと嘆いていた。 ―
―やはり俺よりは劣るが顔も性格もイケメンみたいだ! まぁ、ヤツの事は信用してやろう!
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