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雑誌〇〇別冊掲載 「川島美奈ラジオインタビュー」

 以下の内容は、昭和55年に放送された深夜ラジオ番組『ミッドナイト・ヴォイス』の一部書き起こしである。これは、川島美奈が生前に行った数少ない公のインタビューのひとつとされている。当該回の録音データは数十年前に失われたが、一部内容はファン向け雑誌に記録されており、以下はその抜粋である。


 ⸻


 パーソナリティ:杉山一郎(S)

 ゲスト:川島美奈(K)


 S:『ミッドナイト・ヴォイス』へようこそ。パーソナリティの杉山一郎です。今夜の特別ゲストは、かつて数々の名曲を世に送り出した元アイドル歌手──川島美奈さんです。美奈さん、こんばんは!


 K:(笑みを交えながら)こんばんは、杉山さん。そして、ラジオの前の皆さん、こんばんは。


 S:舞台を離れてから、インタビューに応じるのはこれが初めてですよね? リスナーの皆さんも、近況をとても気にされていると思います。最近は、どのように過ごされているのですか?


 K:最近は……とても静かに暮らしています。家で過ごすことが多くて、散歩したり、本を読んだり。たまに曲を作ろうと試してみたりもしますが、すごくゆっくりなペースですね(笑)。


 S:曲作り! それは興味深いですね。もしかして、復帰を考えていらっしゃるんですか?


 K:(少し間をおいて)……そうかもしれません。でも、昔と比べて音楽への向き合い方が変わった気がします。以前は“売れるもの”を作ることが中心でしたけど、今は、もっと自分の内側を表現したいと思うようになりました。


 S:その変化は、ここ数年の経験によるものでしょうか?


 K:(低く)そうですね……実は最近、声に関する講座に参加していて、音についていろいろと学んでいるんです。


 S:(興味津々で)声に関する講座ですか? ぜひ詳しく聞かせてください。


 K:ええ……ちょっとスピリチュアルな内容なんですけど、声や音を通して自分自身を探るというようなもので。そこで気づいたんです、声って“聞こえる”だけじゃない。感情や思考、もっと深いものにまで影響を与える力があるって。


 S:(やや驚きつつ)声が思考にまで影響するとは……それは面白いですね。たとえば、どんなことを学ばれたんですか?


 K:(静かに)……ある音は人を落ち着かせ、ある音は不安をもたらす……中には、この世界のものとは思えないような音もあって。


 S:(笑いながら)それって、もしかしてオカルト研究を始めたんですか?


 K:(軽く笑って)そんな大げさなものではないですよ(笑)。でも、あの講座を受けてから、音の持つ力に対してもっと敬意を持つようになりました。


 S:お話を聞いていると、まるで“声”そのものが生きているかのようですね。


 K:(静かに)……そうかもしれませんね。


 S:(少し間をおいて、和やかに)とても興味深いお話でした。ですが、やっぱりリスナーの皆さんが一番聞きたいのは……美奈さんの“歌声”ですよね。CMの後には、川島さんに少しだけ歌っていただく予定です。どうぞお楽しみに!


 K:(笑いながら)うまくできるかわかりませんけど、頑張ってみますね。


 ⸻


【CM明け】


 ⸻


 S:さて、『ミッドナイト・ヴォイス』に戻ってまいりました。CM中にもリスナーからたくさんの電話をいただきました。皆さん、やっぱり川島美奈さんの歌声を心待ちにしているようですね。では、美奈さん──ご自身の代表曲でもある『忘れられないハートビート』、少しだけ歌っていただけませんか?


 K:(照れくさそうに)……いま、ですか?


 S:ええ、ぜひ!


 K:(小さく息を吸って)じゃあ、少しだけ……(清唱)

 ♪ あの日の午後に触れた手のぬくもり……

(短く間を置いて、笑う)こんな感じで大丈夫でしょうか?


 S:(笑顔で)完璧です! あの頃のままの声ですね。……でも、二行だけじゃ少し物足りないかも。もう少しだけ、聞かせていただけませんか?


 K:(首を振って微笑む)それは……やめておきます。上手く歌えなかったら、がっかりされちゃうので(笑)。


 S:では、もう一曲いかがでしょう? たとえば『ガラスの微笑み〜Fragile as the Morning Light』。この曲も美奈さんを象徴するバラードですよね。


 K:(少し戸惑いながら)……じゃあ、この曲なら……(清唱)

 ♪ 朝陽の中で輝く、消えそうなガラスの笑顔……

(小さく息を吐いて)これで……よかったでしょうか?


 S:(拍手しながら)素晴らしい! 本当に時代を超える声です。……では、もう一曲だけ。僕の大好きな『ミッドナイト・キス』なんて、どうでしょう?


 K:(笑いながら首を横に振る)それは……今はちょっと。最近、喉の調子を整えていて、高音は控えてるんです。


 S:(少し残念そうに)そうですか、それは残念。でも、今日こうしてお声を聴けただけでも、本当に贅沢な時間でした。最後に、ファンの皆さんに一言お願いできますか?


 K:(静かに微笑みながら)これまで応援してくださって、本当にありがとうございました。でも……時には、過去のイメージに縛られず、そっと思い出にしてくれるとうれしいです。


 S:……とても深いお言葉ですね。川島美奈さん、ありがとうございました。またお会いできる日を楽しみにしています!


 K:ありがとうございました。


 ⸻


 後日談


 このインタビューは放送当時、川島美奈の清唱が久々に公の場で披露されたこともあり、大きな反響を呼んだ。しかしそれ以上に、一部のリスナーの間では、彼女が語った「声はただの音ではない」という言葉が妙に印象に残ったという。


 たしかに彼女の歌声は美しかったが、その声にはどこか影が差すような重たさがあった──と語る者もいた。


 特に『ガラスの微笑み』の数フレーズは、あまりにも儚く、胸を締めつけるような哀しさと圧迫感があったと回想されている。


 また、彼女が『ミッドナイト・キス』の披露を頑なに避けた理由について、一部のファンの間では、彼女が触れていた「声の持つ霊的な力」や、当時学んでいたスピリチュアルな課程との関連性を指摘する声もある。


 あの時期の川島は、すでに何か──言葉にできない“何か”と向き合っていたのかもしれない。

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