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言葉に、できない、  作者: maya.kamimuro
9/10

伝えたい


「あ、若松!」


隣の笑美加が、前を歩く男の子たちに声をかける。

振り返った若松くんと、目が合う。


「ねぇ、ちょっとの間、璃亜お願いしていい?」


突然の笑美加の言葉に驚く。


(!?)


「今日、来れないって言ってた彼から連絡がきてさ。ちょっとだけ時間が取れてここに来るって言うから、少しだけ彼のとこに行きたいんだけど、璃亜1人にできないから。」


驚いている私の反応を無視し、若松くんの返事を聞くなり去っていく笑美加の後ろ姿を目で追う。

彼のいない笑美加がついた嘘。その意味がわかって、緊張する。


桜葉台高校の近くにある神社の秋祭りが行われることを知って、笑美加と一緒に、ここへやってきた。

広い境内には、ところせましと、出店が並んでいて、人も多い。



「若松、俺ら先に行くわ!」

そう言って、若松くんが一緒にいた男の子たちも離れていく。

つまりは二人きり。


(うー…)


「友達と一緒だったのにごめんね。笑美加が勝手なこと言って。」


「や、気にしないで。」


ふいに訪れた二人きりの状況に、ドキドキする。

あのハガキ事件の後からSNSでメッセージをやり取りするようになって、以前のような気まずさはほとんどなくなって、まるで中学の頃に戻ったような気持ちでいられる。

あの頃より、いろいろな話ができているのかもしれない。

そして、気持ちも大きくなってしまっているかもしれない。



「大石、なんか食った?腹減ってない?」

「あ…まだ、来たばかりで何も。おなかは、空いてる。」

「じゃあ何か食わない?俺も腹ペコ。何がいい?」

「うーん…そうだなぁ、いちご飴かりんご飴…かき氷もいいなぁ。」

周りを見渡して、気になったものを挙げる。出店の種類も数も、たくさんあって目移りする。

「甘いものしかないの?」

笑いながら言われて、なんだか恥ずかしくて顔が熱くなる。笑顔がまぶしい。

中学の頃は少しかすれていた彼の声が少し低くなった。それに、なんだか響きが優しい。

背は、もうずっと高くなって。私が見上げなきゃ、顔が見えない。


「若松くん何がいい?」

「先になんか腹にたまるもの食っていい?焼きそばとか唐揚げとか。そのあと、大石希望の甘いもの食おう?」

「うん!私、唐揚げ食べたいな。」

話しながら、唐揚げのお店を探して並んで、できたての唐揚げを受け取る。

「俺、猫舌なんだよね」

先にどうぞと差し出された唐揚げを美味しくいただく。

熱々で、外がカリカリしていて、にんにく醤油の味がたまらない。

「美味しいよ!」

そういうと、若松くんも唐揚げを頬張る。

「あつっ!うまっ!あつっ!」

持っていたペットボトルのお水を飲みながら、「やっぱまだちょっと食べるの早かった」と言う若松くんは涙目だ。

なんだかかわいくて、自然と笑ってしまう。

笑いあって、一緒に食べるものって最高に美味しい。



(やっぱり、好きだなぁ。)


そう感じながら、唐揚げのゴミを捨てに行った若松くんの少し後ろを歩いていると、ふと、名前を呼ばれる。


「俊!」

思わず駆け寄って、俊の隣に美紀ちゃんがいないことに気づく。

一緒に行くって話をしていたはず。

「美紀ちゃんは?」

「あぁ、友だちに会って、話してる。璃亜は?1人?」

「俺と、一緒」

隣に、若松くんが近づく気配がして、彼が答える。

「そっか。1人じゃないなら安心した。じゃあ行くわ。」

そう言って、若松くんの肩をポンとたたいて去っていく。


一瞬、若松くんの眉間に皺が寄った気がして、彼の名前を呼ぶけれど、返事はなく、代わりに突然腕を掴まれる。

「行こう。」

そう言って、足早に進む。

掴まれた腕が熱くて、鼓動が速くなる。


「ごめん。」

神社の隅、人の喧騒から少し離れた場所で立ち止まった若松くんが言う。


「俺、大石のこと…」


そう言って、沈黙が続く。





この空気感が、あの時に似ている。

何を言われるのか不安になって、涙が出そうになる。


若松くんの機嫌が悪くなった気がするのはさっき俊と会ってから。


「…戸塚とは、幼馴染なんだってわかってるけど、妬ける。」


「…やける?」


若松くんの真意がわからなくて、俯く彼に、その言葉を繰り返す。


「…俺、大石のこと…」


顔をあげた彼が、妙に真剣な眼差しでこちらを見つめている。

彼の緊張しているのが伝わってくる。


「若松くん?!」


急にしゃがみ混んだ彼に驚き、私も向かい合わせてしゃがみ込む。


「………よ」


「え?」


何か言われたような気がするけれど、上手く聞き取れない。




「……好きだよ。」


小さく紡がれる彼のその言葉が、耳に届いて、胸が苦しくなった。

しゃがみ混んだまま、顔だけをあげて、私を見つめる。


「…好きだ。」


その言葉に顔が一気に熱を帯びるのがわかる。見つめられている視線に体が動かなくなる。

心臓はドキドキしているし、顔も体もあつい。



「って、なんで…?」


彼の表情が、焦ったものに変わる。


(だって…涙出てきちゃったんだもん。)


俯いて、涙をぬぐう。私、ほんと泣き虫。


「…泣くなよ。どうしていいかわかんなくなる。」


若松くんの困った声が聞こえる。


「…ご、めんねっ。」

謝りながら、顔をあげるとそこには、切なそうな表情を浮かべた彼がいる。


「俺、大石のこと、泣かせてばっかりだよな。 …ごめんな。」


「ち、がうっ。違うの。…うれしくて!」


「……私ずっと、…忘れられなくて。」


気持ちがくじけないうちに、伝えきる。

言葉にして、伝える。


「…す、き」



私を見ていた若松くんの顔が、赤くなって、照れたように笑う。

ただでさえドキドキしている心臓が、もっともっと脈打つ。

胸の奥がきゅうと締め付けられる。


「俺、自分の気持ち、ちゃんと言葉にするから。大石も遠慮しないでなんでも話して。幼馴染に相談する前に、俺に話して。じゃないと、俺、頼りになんないのかなって不安になる。情けないけど…前は、戸塚に嫉妬して、俺じゃダメだって、勝手に決めつけて、あきらめて、大石を傷つけた。」


そう言って彼は立ち上がる。


しゃがみこんだままの私に差し出された手を借りて、立ち上がろうとして、急に引かれて抱き寄せられる。


「…それなのに、あきらめられなくて、忘れられなくて。 …ごめんな。」


抱きしめられて、彼の胸元に近づいて、そして気づく。

彼の体の熱さと、彼の、その心臓が私と同じくらい速く鳴っていることに。




「…言葉に、できない、そのくらい。…どうしようもないほど、好き、だ。」




彼が想いを吐露する。今まで聞いたことのなかった想い。

うれしくて、抱きしめられたまま、私は頷いた。

何度も、何度も。

頷いた。


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