じれったい(SideXXX)
「これ、書いたのお前だろ?」
急に自宅にやってきた若松は、怒気を含んだ声をしている。
「あれ?もうバレちゃったの?」
そう返して、読んでいた本の続きに目を移す。
「たち悪いだろ?」
「夏休みなのに学校行ったんだ?」
「…どうやって住所調べたんだよ?」
俺の質問に答えず、いらだった声色のまま続ける。
「お前、部屋の壁に貼ってあるだろ?」
俺は本から視線を外し、制服姿の若松に向かって言葉を返す。
前に行ったことのある若松の部屋に、貼られた写真や年賀状は、彼女への想いを表していた。
「…悪かった。」
勝手に若松を装ってハガキを出したことに罪悪感はあるので、素直に謝っておく。
「大石、怒ってた?お前がコレ持っているってことは話したんだろう?」
若松の手に握られたままのハガキを手に取る。
俺が大石宛に書いたハガキ。
「…怒ってはないと思う。」
若松はため息をつきながら座り込み、テーブルへ頭を伏せる。
「そっか。で、気持ちは伝えた?」
アナログな手を使ったのは、壁に貼られた年賀状を見たから。
ハガキに返事をするって、相当律儀か、気持ちがあるかじゃない?
大石は、けっこうな頻度で若松を見つめていて、そして俺ともよく目が合う。
見ているのは気持ちがあるからで。
目が合うと必ず会釈を返してくるのは、律儀な性格の現れでもあると思う。
だからきっと何か反応があると思っていた。
その反応をきっかけに若松が行動を移せたらいいと…考えてた。
「…ない、」
「は?」
小声過ぎて聞こえない。
「…伝えてない。」
「連絡先くらい交換したんだろう?」
「…それは、…した」
「何かやり取り…してないよな。お前だもん。」
突っ伏したままの頭に向かって断言すると、勢いよく顔が上がる。
何か言いたそうにして、そしてまた顔を伏せる。
「…何か送っておけよ。」
「今のまま見てるだけだと、そのうち誰かのものになっちゃうかもよ?」
中学の頃、両想いになって付き合って。
若松が抱く嫉妬心で彼女を手放したのに、ずっと忘れられないでいる。
手放したことを後悔して、志望校を変えてまで同じ学校へ入学したのに、想いを伝えることも、声をかけることすらしていない。
けっきょく見ているだけで、じれったい。
たぶんまだ、お互いが想いあっているだろうに。
本当に大切な人ができたら、こんなに憶病になるんだろうか。
恋をしたことがない俺は、味わったことのない思い。少しうらやましくも思う。
(こいつの想いが早く相手に伝わりますように。)
俺は、ハガキを破りながら、願った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
明日、明後日と2日間お休みします。
よろしくお願い致します。