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言葉に、できない、  作者: maya.kamimuro
7/10

じれったい(SideXXX)


「これ、書いたのお前だろ?」

急に自宅にやってきた若松は、怒気を含んだ声をしている。

「あれ?もうバレちゃったの?」

そう返して、読んでいた本の続きに目を移す。

「たち悪いだろ?」

「夏休みなのに学校行ったんだ?」

「…どうやって住所調べたんだよ?」

俺の質問に答えず、いらだった声色のまま続ける。

「お前、部屋の壁に貼ってあるだろ?」

俺は本から視線を外し、制服姿の若松に向かって言葉を返す。

前に行ったことのある若松の部屋に、貼られた写真や年賀状は、彼女への想いを表していた。

「…悪かった。」

勝手に若松を装ってハガキを出したことに罪悪感はあるので、素直に謝っておく。


「大石、怒ってた?お前がコレ持っているってことは話したんだろう?」


若松の手に握られたままのハガキを手に取る。

俺が大石宛に書いたハガキ。


「…怒ってはないと思う。」

若松はため息をつきながら座り込み、テーブルへ頭を伏せる。

「そっか。で、気持ちは伝えた?」

アナログな手を使ったのは、壁に貼られた年賀状を見たから。

ハガキに返事をするって、相当律儀か、気持ちがあるかじゃない?

大石は、けっこうな頻度で若松を見つめていて、そして俺ともよく目が合う。

見ているのは気持ちがあるからで。

目が合うと必ず会釈を返してくるのは、律儀な性格の現れでもあると思う。

だからきっと何か反応があると思っていた。

その反応をきっかけに若松が行動を移せたらいいと…考えてた。


「…ない、」

「は?」

小声過ぎて聞こえない。


「…伝えてない。」


「連絡先くらい交換したんだろう?」


「…それは、…した」


「何かやり取り…してないよな。お前だもん。」


突っ伏したままの頭に向かって断言すると、勢いよく顔が上がる。

何か言いたそうにして、そしてまた顔を伏せる。


「…何か送っておけよ。」


「今のまま見てるだけだと、そのうち誰かのものになっちゃうかもよ?」


中学の頃、両想いになって付き合って。

若松が抱く嫉妬心で彼女を手放したのに、ずっと忘れられないでいる。

手放したことを後悔して、志望校を変えてまで同じ学校へ入学したのに、想いを伝えることも、声をかけることすらしていない。

けっきょく見ているだけで、じれったい。

たぶんまだ、お互いが想いあっているだろうに。


本当に大切な人ができたら、こんなに憶病になるんだろうか。

恋をしたことがない俺は、味わったことのない思い。少しうらやましくも思う。


(こいつの想いが早く相手に伝わりますように。)


俺は、ハガキを破りながら、願った。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

明日、明後日と2日間お休みします。

よろしくお願い致します。

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