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言葉に、できない、  作者: maya.kamimuro
5/10

やっぱり


あの日から、何度か、若松くんと女の子が一緒にいるのを見かける。

髪型と背格好から、屋上へと続く階段の踊り場で、告白をしていた子だと思う。

教室前、廊下の窓から、購買へ続く外廊下を覗く。


(…今日も、一緒にいる。)

彼女は、若松くんを見ている私を認識しているようで、目が合うと、じっと見つめ返される。今も。

私は、慌てて目をそらして、そして、もやもやする。何度も。


もやもやするのが嫌で、若松くんを見ないように気を付けているのだけど、自然と探してしまう。見つけ出してしまう。


そして、隣にいる彼女にやきもちをやいている。

彼の隣に並べて、うらやましい。

自分の隣に彼がいた中学の頃を思い出しては、切なくなる。


(どんな話をしているの?)


「お昼、中屋で食べようよ。」


ポンと肩を叩かれ振り返ると、笑顔の笑美加がいる。私が見つめていた先に気づいて、一瞬心配げな表情を浮かべたものの、そこには触れずにいてくれる。


「ねぇ、私も一緒していい?ちょっと璃亜ちゃんと話したいことがあるの。」

2人で中屋へ向かう途中、クラスメイトの遥に声をかけられ、3人で歩き出す。


私たちが通う桜葉台高校は、西側に立つ6階校舎と東側に立つ5階校舎、その中央にある中央校舎で構成されている。中央校舎には2階に昇降口が造られており、その昇降口の屋上を「中屋ちゅうおく」と呼ぶ。西側校舎の屋上が「屋上」と呼ばれていて、東校舎には屋上がない。


中屋は、お昼休みの時間に中央校舎の影が少しできる。

夏真っ盛り、7月のこの季節でも、その日陰とそよぐ風で心地よい空間になっている。


そんな中屋の日陰の一角を陣取り、お弁当を広げる。


「ね、話ってなに?」

私は早速、遥へ尋ねる。


「単刀直入に聞くね。3組の若松大翔くんと、璃亜ちゃんって、つきあってるの?」


その言葉に、お弁当箱を開けようとしていた手が止まる。


「言葉が選べなくて、ごめんね。」

謝る遥に、遠回しに聞かれるより断然気持ちがいいよと、お弁当箱を開けて、大好きな卵焼きをぼんやり見ながら、答える。


「…過去、かな。中学の時にね…つきあってたんだ。」



「そうなんだ。ごめんね…」

私の答えに眉を下げ、話を続ける。


「実は、そのこと聞いて回っていた子がいて。」

「なにそれ?どうゆうこと?」

口の中に食べものが入っていて、もごもごした声で、笑美加が聞く。


「その子、同じ中学だったんだけど、ちょっといい噂を聞かなくて。彼女いる男の子のこと略奪しちゃうとか。」


「私、璃亜ちゃんと若松くんがつきあってるのかと思って、ちょっと心配になって。」

早とちり、余計なお節介をごめんねと謝る遥。


「そっか。心配してくれてありがとう。」


お礼を伝えて、少し甘めの卵焼きを口に入れる。

口に広がる甘さに反して、心が、重くなる。

彼には、新しい彼女ができて、前に進んでいっているのに、自分だけが、彼への想いにとらわれている。



予鈴が鳴って、3人でお手洗いへ寄る。お昼休みも、あと5分で終了だ。

個室の中、先に来ていた子たちの会話が聞こえる。


「ねぇねぇ、最近、若松くんとよく一緒にいるけど、付き合ってるの?」

その内容に、ドキッとする。彼の名前を聞くだけで、私は敏感に反応する。

「付き合ってないよ。振られた~!」

答えたその声は、悲しみを含まず、からっとしているのがわかる。

「じゃあなんで、一緒に?」


「私には、好きな人がいるって言ったのに…… なんてゆうか女々しくて!むかつくんだよね!」

少し間があいてから聞こえてきた声は、途中からどんどん大きくなる。

イライラした気持ちがこもっている。


(その話、聞きたいからありがたい。…いや、聞いたらダメか。盗み聞き。)


「え?何それ?わけわかんない。」

友だちであろう子の言葉に、私も同意。自然と頷いてしまう。

「わけわかんなくていいよ~!そろそろ行こう!」

そう言いながら、立ち去っていく足音が少しずつ小さくなる。


慌てて個室から出ると、笑美加はすでにそこにいて、今の子たちの後ろ姿を確認していた。

遥は、不自然な動きをしながら彼女を追っていった。


見えた後ろ姿。あれは、きっと、屋上の彼女だ。


(付き合ってないの?)


「事実だと思うよ。今の、例の屋上の彼女でしょ?」

「たぶんそうだと思う。」

「だいたいさ、璃亜に未練たらたらの若松が、別の子とつきあうはずないって思ってるんだよね、私は。」

と、笑美加は、確信を持ったようにはっきり言う。


屋上の、あの子とつきあってないと知って、ほっとしてしまう。


(つきあっていないなら、よく一緒にいるのはどうして…?)


その理由を知りたい。

やっぱり私は彼が好きで、どうしようもなく彼のことが、彼に関係することを、少しでも知りたいんだ。


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