忘れられない(Side大翔)
大石の姿を見て、心臓が鷲掴みにされたようにぎゅっと締めつけられた。
慌てて追いかけようとした。
「待って!!」
それを遮られる。
目の前の彼女は、俺の制服の裾を掴む。
一瞬忘れてしまっていた、今の状況を思い出す。
あきらめるからと頼まれて、彼女を抱きしめてしまった俺に、罪悪感が生まれていた。
正直、俺も男だ。
震える声で、顔を真っ赤に染めながら告白されて、かわいいと思った。
でも。
それは、あの時の大石の姿にかぶっただけだ。
想いを伝えられた時の、昔の彼女の姿に、かぶっていただけ。
「ごめん。俺、君の気持ちには、応えられない。」
「好きなやつがいる。」そう伝えて、掴まれた制服をそっと離す。
泣きそうな表情で走り去った大石の姿を思い浮かべながら、昇降口へ向かう。
俺じゃだめなのは、わかる。
でも、気になってしかたない。
靴が、まだ、ある。
教室だろうか。
何を話そうとしているのか。
そんなのちっとも頭になくて、ただ、大石の教室へ向かった。
そして、見てしまった。
照明が落とされ、降り続く雨で薄暗い教室で、あいつに抱き寄せられているところを。
目を離せずに見つめていると、ふと顔をあげたあいつに睨まれた。
足が、自然と教室から離れる。
再び走って。
イライラとしたため息とともに廊下の隅に座り込む。
俺を睨みながら、あいつは。
あいつは、いとも簡単にあの柔らかそうな髪にキスしてみせた。
(なんなんだよ!)
俺を牽制なんてしなくたって、わかっているだろ。
俺は、髪に触れるどころか、緊張してまともに話もできねぇんだって。
「……りあ…」
そう、呼ぶこともできない。
愛しい名前をひとり、つぶやいた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
毎日投稿を目標にしていますが、明日はお休みしたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。