不器用な恋(side俊)
(帰るか…)
時間をスマホで確認し、弁当箱くらいしか入っていないバッグを肩にかける。
教室のドアへ向かいかけたとき、よく知った姿が駆け込んできた。俯いて、手の甲で目元をぬぐっている。
「璃亜、どうした?」
涙をぬぐう仕草をする幼馴染に、俺は声をかける。案の定、涙に包まれた赤い目が俺を捕える。
「…璃亜?」
近づいて、顔を覗き込むが、彼女は何も言わない。
泣き虫な俺の幼馴染は、感受性が強くてちょっとしたことでよく泣く。ただし、泣いた理由を話さないときは、必ず他人が関係している。それがわかっている俺は、何も言わない彼女の頭にポンポンと優しく触れる。
そんなに時間はたっていないと思う。ふと、教室のドアの向こうに人影が見えた。
(…あいつ)
肩にかけたバッグを近くの机に置いて、彼女をそっと抱きよせる。璃亜は戸惑ったような反応を一瞬見せたが、されるがままとなる。
彼女の髪をゆっくりとなでながら、髪先を持ち上げて、そこに唇を落とす。そして、こちらを見ているあいつを目だけで挑発する。
怯んだ表情をしたあいつは、そのまま走り去る。
(まだ足りねぇのか…)
俺はため息をつく。
(まったく、もどかしいな…)
璃亜があいつを想っているのも、あいつが璃亜を想っているのも、わかっている。
一度、つき合った2人が、なぜ別れを選んだのか、その理由も薄々は気づいている。
それに、気づいていて、俺はわざとあいつを挑発した。
なのに、あいつはまた、逃げる。
俺ってほんとう性格悪い。
でも、俺にとって璃亜は、家族みたいなものなんだ。泣き虫なこいつを泣かせるようなら渡さない。大切にできないようじゃ渡さない。